2008-11-18
■[料理]五代目小さんのおむすび
ごはんは炊きたてのアツアツよりも冷や飯の方がうまい、という説があります。芝増上寺79世法主・道重信教(今一休と呼ばれた明治・大正時代の名僧。道重さゆみの曾祖父という噂あり)は子母澤寛のインタビューにこたえて
飯じゃがね、これはつめたいに限る。たきたてのあたたかいのは、第一からだに悪いし歯にもよくないし、おまけに飯そのものの味もないのじゃ。本当の飯の味が知りたいなら、冬少しこごっている位のひや飯へ水をかけて、ゆっくりゆっくりと沢庵で食べて見ることじゃ、この味は恐らくわしのような坊主でなくては知るまいが、うまいものじゃ。
と語っております。
ごはんに冷水をかけて食べる料理には、夏の季語にもなっている「水飯」というのがあります。炊きたてのごはんをざるにとって流水で洗いさまし、ぬめりがとれたら椀によそって氷水をかける。それを漬け物などで食べるというものです。平安貴族は夏場にこれを食して涼をとったと言います。たしかに夏場に食べる分にはよさそうです。
さて本題。落語家初の人間国宝に認定された五代目柳家小さんは、ごはんを味わうには「むすびがいい」と言っています。
むすびさ。むすびのうまいのって、やっぱりやわらかいめしはだめ。強わめのめしでなくっちゃあ。それを固くにぎって、塩を濃くして、うんとしょっぱくして、それもめしのなかに塩がしみこむから、朝にぎって、お昼ごろ食うのがうまい。むすびのなかに梅ぼしがはいっててもいいし、はいってなくてもいいが、しょっぱいたくあんかなんかあるのもいい。
飲みものは、水か、ぬるま湯。むすび食うときは、熱いお茶は、むすびの味を消しちゃうからだめ。その塩気のあるむすびをかむ。かんでる最中に水を飲む。そうすると、むすびについてる塩気のところを水が通って、その水のうまさ。塩気とともにずっと水が通ってからむすびをのみこんで……それが一番うまいむすびの食いかたで、熱いお茶をふうふうふきながらじゃあうまくない。
というわけで試してみました。
せっかくなので米は新潟産の永田農法コシヒカリ。炊くのと飲むのは四万十川の源流の天然水を使ってみました。塩だけはなぜか、ポルトガルの大西洋岸でローマ人がやっていたのと同じ手法で作られた、手作りの塩。
で、感想ですが…シンプルな上に冷えているので、米の味、塩の味がくっきりはっきり出ます。しょっぱいけどとてもおいしい。噛み締めるほど口の中に米の風味と塩味がふくらむので、「かために炊いて、かたく握る」のがいいという意見に納得。そしてお水。ごはんをのどに流し込むおひやが滅茶苦茶うまいです。口の中の塩味の広がりとのどを通る冷水の爽快感は異常。「ごはんは冷や飯に限る」という道重信教師の主張がよくわかる一品でした。
どんなにうまくとも冬場に水飯はすすめられませんが、これだったら自信をもってすすめられます。「かために炊いて、かたく握る。塩気は強く、作って半日は置く。飲みものは水かぬるま湯」。このすべてに理由があるので、しっかり守って作ってみてください。