2008-09-17
■[編集]宮崎駿が描く食事がうまい理由
今日の一枚
紙ごみの中に潜って遊び中。
いまさら言うまでもないですが、ジブリ飯というやつはどれも実にうまそうで、見ると胃が強く刺激されます。
秒ナビ:ジブリの料理がうまそうな件
JADE=GREEN=BEACH:スタジオジブリ料理のページ
本題に入る前にいったん脇道にそれますが、スタジオジブリには"ジブリ学術ライブラリー"というレーベルがありまして、その中のひとつに「人間は何を食べてきたか」という作品があります。元は1985年から1994年にかけてNHKで放送されたドキュメンタリーです。
「人間は何を食べてきたか」はタイトルの通りさまざまな食材の原点を追うことで、食物と人間の関係を浮き上がらせるドキュメンタリーです。その中には日本人が魚をさばくように鮮やかに豚を解体してソーセージを作るドイツの人や、朝昼晩毎日同じパンとベーコンとピクルスだけを食べ続けるオーストリアの農家など、平均的な日本人とはかけはなれた食生活を送っている人がたくさん登場します。
宮崎駿監督はこの番組をテレビでみてショックを受け、日本中の人がこれをみるべきだと思い、権利を買い取って商品化したと言われています。
さて。このように食に対して強いこだわりがあるように見える宮崎監督ですが、おもしろいことに日々の食事は非常にシンプルであると言われています。スタジオジブリのプロデューサーである鈴木敏夫氏は、監督の食生活について次のように語っています。
ぼくは宮崎に出会って26年目に入っているんですけど、食うメシが他人と違いますよね。
宮崎駿が何を食べているか。25年間、変わっていないです。アルミの弁当箱を持ってくるんですよ。それで、ごはん、ぎゅうぎゅう詰めなんです。そこには、卵焼きや沢庵や、ソーセージがコロッと入っていたり、ハムや揚げ物が入る程度。
それを彼はお昼になると、毎日ハシでそれをガッとふたつに分けます。こちら側がお昼で、こっちが夜、と。ジブリの若いスタッフでさえ、みんなが、「どこの何がうまい、ここのレストランがうまい」と言っている時に、そういうものには目もくれずに、とにかく彼は何十年もそれをやりつづけている。
よほど食材がいいのか、あるいは奥様が料理上手なのかと思いましたが、この弁当、うまくはないらしいのです。食生活が本当に質素なんですね。
奥さんがたまに旅行に行くと、自分でごはんを炊いて、自分で弁当箱を作ってくるんですよ。おかずも自分で適当に入れてくる。それ以外のものを、彼は基本的には食べないんです。
たまに、「今日は鈴木さん、外にメシを食いに行くけど?」と言うと一緒に行くんですけど、彼が何を食べるのかと言うと、スタジオジブリのある東小金井駅前の立ち食いの牛丼屋なんですよね‥‥。
このような質素で単調な食生活を送っている人間に、なぜ魅力的な食事のシーンが描けるのか。「実はそれが彼の発想の原点なんじゃないか」と鈴木氏は語ります。
大袈裟に誇張して言うと、宮さんがおいしいものを食べるのは、1年に1回。誰かに誘われた食事会にいくんですよ。
彼はだいたい、人と一緒に食事をしないですから。それは何でかっていうと、彼の食事は弁当箱半分ですから、1回の食事が5分で済むんですね。
そういう暮らしですから、食事会では、当然相手は、何かをしゃべりたいと思って食事に来ているのですけれども、宮さんにとっては、何しろ食べたことのないものが1年ぶりに目の前に現れるわけですから、1個1個、運んできた人に、「これはいったい何ですか?」ということを、聞きまくるんです。
聞くと同時に、食べはじめたら「うまい!」の連発なんです‥‥。これじゃ、しゃべるヒマは、ないですよ。
ええ。弁当箱です。あの中にすべての秘密が詰まっているというのが、ぼくの意見なんですけどね。だって、おいしいものを食べていないですもの。
宮崎監督の日々の食事は「生きるために食べる」という、食の原点に近いところにあります。これは私たちよりもむしろ「人間は何を食べてきたか」の登場人物たちの側に近い立ち位置であると言えます。
原点を守っているからこそ、おいしいものに出会った時に強く感動することができる。宮崎監督は食事シーンを通して、自分が得たその感動を私たちに伝えようとしているのではないでしょうか。
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