2008-02-28
■[書評]一途な愛の二つの形:月吉ヒロキ「独蛾」/真田鈴「すきなんていってあげない」
今日の一枚
しょんぼり。
このblogでは書評とエロ方面の話は普段はしていないのですが、担当の作家2人がほぼ同時期に単行本を出して、しかもそのどちらもがとてもよい出来だったので、ちょっと書いてみようと思います。
「LO第50弾記念作品」と帯に銘打たれた「独蛾」は、月吉ヒロキさんの2冊目の単行本になります。内気な少女を痴漢が弄ぶ描写のエロさと執拗さで、LOの読者を瞠目させた初単行本「夏蟲」から3年。その間に前作をはるかにしのぐ力を身に付けて、月吉さんが帰ってきました。
表題作『独蛾』には、自分のことを不感症だと思っているお堅い少女・白河すみれ(おでこがキュート)と、彼女が慕う教師の倉橋(変態)、倉橋の友人ですみれのカウンセリングを受け持つ荒木(変態)の3人の人物が登場します。物語は基本的には荒木が超強力で都合のいい催眠術を駆使して、すみれの心と身体を開発していくことで進行していきますが、まずその「開発」ぶりが尋常ではありません。
「独蛾」の裏表紙の帯には次のように書かれています。
電車痴漢・黒タイツ失禁・催眠調教・野外羞恥プレイ・目隠し・足舐め・クリ責め・電マ責め・フェラ特訓・ビデオ撮影・犬姿勢放尿・尻穴特訓・拘束強制アクメ・ネトラレプレイ・逆痴漢・連続膣内射精
…でも純愛。ただひたすらに愛だけ。
上に書かれたプレイはすべて、作者一流のねちっこい描写で、これでもかとばかりに描かれます。これだけでもちょっとすごい物量です。しかしこの作品にはさらにその先があります。『独蛾』において作者は荒木の催眠術を使って、喜怒哀楽羞恥絶望官能その他の、ありとあらゆる表情をすみれから引き出していくのです。
「萌え」というのは要するに女を鑑賞することであり、エロゲーの物語がどうこうとか言っても、実際のところ、喜んだり悲しんだり絶望したりしている女の姿を鑑賞するための方便である、と。
ヒロインのぐっとくる姿をいろいろと観賞するためには、通常はそれなりの量の時間と事件(物語)が必要です。しかし強力で都合のいい催眠術を導入すれば、七面倒臭い過程をすっとばして結果だけを鑑賞することができます。実際『独蛾』は大量のプレイと多彩な表情を盛り込みながら、尺的には150ページくらいしか使っていません。物語を思い切って割り切ることで、空いた隙間に快楽を詰め込む。『独蛾』はこれにより他を圧倒する密度を手にしました。
まず間違いなく2008年度のエロマンガの5指に数えられるであろう特濃の一品。
ハード目なエロマンガが好きな人はぜひ一度ご覧ください。
最後に。この単行本は中身を読み終わるまでカバーを取ってはいけません。先に見るとどっちらける可能性があるものがあるので、お気をつけください。
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■一途な女の子が、好きな男にいじわるされる作品集―真田鈴「すきなんていってあげない」
「すきなんていってあげない」は月吉さん同様、真田鈴さんの2冊目の単行本になります。エロマンガの世界では真田さんはどうもツンデレ描きとして認識されているようでして、帯の文言もそれを意識したものになっています。実際初単行本の「だいきらい×だいすき」にはわかりやすいツンデレさんが多数出てくるのですが、今回の「すきなんていってあげない」にはステレオタイプなツンデレはほとんど出てきません。
「すきなんていってあげない」には全3話の『恋のグラマー』と前後編の『フラちな』、そして5つの短編が収録されています。各作品の男女の取り合わせは
・家庭教師を請け負ったお姉さんと、彼女と同じ大学に行きたい男の子
・口下手無表情少女と思い込みの激しい男
・後輩のミスで怪我をした女の先輩と、引け目を感じて奉仕奴隷に勤しむ後輩
どの作品も概ねヒロインの立場が強く、ツリ目率も高いので、表面だけ見ればツンデレっぽい感じではあります。しかし実際はどのヒロインもほぼはじめからデレ期に入っていて、ツンデレの基であるところのツンがほとんど出てきません。ビターな前置きなしで甘々な話が展開されます。
ではこの本はダメなのかと問われれば、それは断じてNO。
これは甘美なデレ期を堪能することに特化した本なのです。
ツンデレはデレが進行することで男女の力関係が逆転することがあります。この本は全体的にそのような具合になっていて、ヒロインはみんな一途で主人公にベタ惚れ。主人公はヒロインの好意に乗っかる形でヒロインにいじわるをする、という構図がエロシーンで多々見受けられます。気が強くて立場も上の女の子が、いじわるをされて困ったり感じちゃったりする姿のなんと愛らしいことか!
「ツンデレ」という言葉が世に出てもう7年。訓練された読者なら、かつてあったであろうきついツン期を脳内で補完しながら、デレの甘さを存分に味わうことができるはずです。ステレオタイプのツンデレを一歩進めて甘味を際立たせた「すきなんていってあげない」。おすすめです。
■おまけ