2007-10-01
■[編集]世界は美しくなんかないので、原作物の編集者はいつもたいへんというお話
多摩坂です。マンガ雑誌についてネガティブなことばっかり書いているので、マンガ雑誌不要論者と思われるかもしれませんが、そうではなくて、どちらかというとメディアとしての役目を終えようとしているのではないかと考えているマンガ雑誌寿命論者です。
さて。ジョージ・ルーカス監督がスター・ウォーズを製作した際、三船敏郎氏にダース・ベイダー役での出演をオファーしたが断られたという、有名な逸話があります。スター・ウォーズのその後を知る我々からすれば大変にもったいない、残念な話です。しかし当時の三船氏の立場から見れば、受けることにまったくメリットを見いだせない仕事であり、断るのは当然であると言えます。
上の例ほど劇的ではありませんが、原作物を担当する編集者も普段作家を探していて、ルーカス監督と似たような目に遭うことがあります。というかよく遭います。いける匂いのする企画をおさえたとして、作家にもあてがあったとしても、その作家が受けてくれるという保障はどこにもありません。企画に興味がわかないとか、条件が折り合わないとか、スケジュールに空きがないとかで断られるのはしょっちゅうです。
さらにやっかいなことに、意中の人に断られたからといって、企画というものはそれで立ち消えになるものではありません。第一希望がだめなら第二希望、それもだめなら第三希望。いくらやってもだめなので、仕方がなく手が空いている作家に頼みこんで描いてもらうことすらあります。企画の仕上がりがどうなるかはいわずもがなです。
作家のことで悩めるのならまだ幸せ、というケースすらあります。新作のアニメやゲームのメディアミックスの一環としてマンガを作ることになった場合、最初は往々にして企画書や設定資料くらいしか事前情報がありません。だいぶ後になってから、自分がとんでもない地雷原に足を踏み入れていたことが判明するという、笑えない事例が意外とあるのです。
最後に。企画が上等で、関連作品のスタッフも素晴らしく、作家もそこそこ優秀という、一見非の打ちどころのない体制ができあがったとしても、油断はできません。原作やアニメが大ヒットしてしまったせいで、マンガがそれらと比較されてしまい、そんなに悪い出来でもないのに黒歴史呼ばわりされる。数字が出ているにもかかわらず、まわりから「もっと売れるものが作れたんじゃないのか」という目で見られる。そういった極悪な罠である可能性があります。
実力はあるにもかかわらず、ただただ運がなかったために不幸な結果に終わった作品は意外とたくさんあります。ダメな企画物にあたった時は、マンガとして読むのではなく、何がまずくてこんなことになったのか舞台裏を想像してみると楽しいでしょう。
■[その他]ブロガーの先達の皆様からいただいた御下問に答えを返してみるテスト
ここ数年毎日のように見に行っていたサイトの管理人様がたから、おそれおおくもご意見など賜りましたので、折角なのでお返事など書いてみたく思います。
三等兵様の「ラノ漫が囁く「また同人作家さ」問題」について
失礼ながら、メディアワークスの編集が持ち込みを要望することには、パンを咥えた少女が全力奪取でぶつかってくる種類の妄想作品を脳内に描く才能のある人間に向かって、「街に出て積極的に毎日女の子に声かけろ!」という体育会系のナンパ術の説教をするような矛盾を感じるのであります、隊長。
Sir!! 自分のリビドーを紙に叩きつけて印刷所に持っていって本にして、それを同好の士に対面で売りさばくバイタリティがあるなら、持ち込みまではあと一歩だと思います。それと、大手にばっかり持ち込みする人たちに対して、たまには俺たちにもメジャーっぽい原稿を読ませてくれよコノヤロウと思って書きました Sir!!
ハナっから、メディアミックスの原作つきマンガを描きたいと思う種類の人間は、当然のことながら同人活動をしているがゆえに、リビドーが満足してしまっていて、持ち込みまでの距離を埋める精神エネルギーが残っていないと思うのであります、推忍。
Sir!! たかだか年に数冊、100ページにも満たない量の同人原稿で枯渇してしまうリビドーでは、その4・5倍もの生産量を求められるプロには到底なれないと思うのであります。 Sir!!
さらにいうと、既に「アシスタント」と「同人作家」のグループは、かなりの比率で被っていると思われるので、がんばってアシスタントをプロに転向させても同人作家にしか見えず、どうにもならんと思うのであります、サー。
Sir!! これについてはまったくその通りであります。 Sir!!
(略)「非同人のマンガ家デビュー」というのが、 「8頭身モデル並みにスマートで巨乳の、性格の良いツンデレ美人(彼氏なし)」 くらいに存在確率の低い生き物だと思えてきます。そういうのは私の知る限り、テレビ局近辺にしか存在しません。
Sir!! テレビ局近辺の女人が過酷な競争を勝ち抜いてきた猛者であるように、それくらい希少な才能でなければ原作なしのオリジナルマンガをヒットさせることなどできないのであります。ほどほどでいいなら同人作家だけでいいわけで、それではだめだと思っているから希少種を求めて門を開いているのであります。 Sir!!
Sir!! コミホリでの御武運をお祈りいたしております。 Sir!!
続きまして、bullet様の「からんでるわけじゃないの。」
「○作家を探す・作家を選ぶ」なんだけど、この項目が何で最初なんだろう、と。この項目の前に、「○作品(原作)を探す・作品(原作)を選ぶ」って項目がない?
あの記事はマンガ編集者一般について書いておりますので、私がやっているような特殊な仕事については言及しておりません。後日別エントリを立てて書くつもりでおります。
本日の1本目のエントリで書いた理由が1つ、後日書くつもりでおります「性格という名の才能」の問題が1つ、不特定多数の人間が見る場では書けない問題が1つの、3つの理由があると考えております。
この雑記は、社員だと書けないけれども、フリーならかろうじて書けるという範囲を測ってやっております。たとえフリーでも書いたら干されるといったレベルの話題には言及できませんので、その辺はご理解いただきますようお願いします。