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水俣病の未認定患者を救済する特別措置法案を与党が国会に提出し、民主党との協議が始まった。だが、まだこの与党案では決着とはなり得ない。
与党案では、手足の先になるほど感覚が鈍る障害のある人を対象に、1人当たり150万円の一時金と月額1万円の療養手当などを支給する。
同時に、分社化を条件に一時金の負担に応じる姿勢を見せる原因企業チッソに歩み寄り、分社化を認め税を減免することなども盛り込まれた。
水俣病の患者であるかどうか、行政機関の結論を待つ人は6千人を超す。目前の懸案を収束させようとするあまり性急になっていないか。
与党案は見過ごせない多くの問題点を抱えている。
とりわけ重大なのは、3年をめどに支給対象者を確定し、その後、公害健康被害補償法(公健法)に基づく地域指定を解除しようとする点だ。それは認定制度という水俣病被害者を救済する行政上の仕組みの廃止を意味する。
チッソの分社化を認めることも見過ごせない。補償会社と事業会社に分け、事業会社の株を売って補償金に充てる算段だ。実質的には原因企業の消滅案といっても過言ではあるまい。
なかなか名乗り出られない潜在患者がいる中で、期限を区切って被害者救済の門戸を閉じ、加害企業が消える道筋をつけるわけだ。現地では「被害者救済ではなく加害者救済だ」という批判が高まっている。当然のことだ。
地元と歩調を合わせて民主党も独自の救済法案をつくった。近く国会に提出する予定だ。
与党案とは、とりわけ救済対象者について大きな差がある。「四肢末梢(まっしょう)優位の感覚障害」に限定している与党案に対し、民主案は全身性や舌の感覚障害などを含めて、より幅広い症状を対象とする。
水俣病はまだ終わった問題ではない。そもそも、救済を受けるべき人々を定義するための「水俣病とはどんな病気なのか」という議論に決着がついていない。地元の医師らは、胎児性の場合は感覚障害がみられないことがあるなど多様な例を指摘している。
民主案には地域指定解除も分社化も盛り込まれていない。一時金はまず国が全額を立て替えて支払い、後でチッソに請求する案だ。
いまの基準で救済しきれない被害者を含めた恒久的救済のために必要なのは、与党案のように急いで足切りをすることではない。この際、国会の場で与野党がとことん議論してほしい。
水俣病の被害が確認されてまもなく53年となる。被害者はどんどん高齢化している。解決は急がねばならない。真の被害者救済に政治がどこまで取り組む気があるのか、その本気度を問いたい。
日本経済が危機を乗り越えるためには、金融の安定が欠かせない。これまでは震源地の米国や欧州にくらべれば傷が浅かった金融だが、今後は「5月危機」を封じ込められるかどうかが一つの試金石となる。
5月にかけて発表される企業の3月期決算で、銀行からの融資に付いている「コベナンツ(債務制限条項)」がどう扱われるか、市場で注目されている。「純資産を減らさない」「2期連続で赤字にしない」などの約束を果たせないときは融資を全額返済する、と銀行と契約しているものだ。
平時なら該当する企業は少ないのだが、いまは有力企業も軒並み抵触する恐れがある。もし契約通りしゃくし定規に事が進められたら、資金を引き揚げられ、資金繰りに困る企業が続出しかねない。返せない企業は銀行に頼んで融資条件を変えてもらうしかない。場合によっては不良債権扱いになり、経営に大きな支障も出てくる。
数年前、不良債権処理のスピードを上げようとした金融庁がルールの厳格運用を銀行や監査法人に求め、信用収縮を招いた。その反省から今回は銀行に弾力的な運用を求め、監査が厳しくなりすぎないよう基準も見直すという。ルールを守りつつも、信用不安を起こさない運用が必要だ。
融資の返済どころか、企業は逆に借り入れを増やそうとしている。株式や社債の発行が難しくなっているからだが、銀行は不良債権化を恐れて融資の増額にはなかなか応じない。
そこで政策金融の需要が高まっている。大企業向けの政策金融を担う日本政策投資銀行の「危機対応融資」は、わずか4カ月で1兆円を突破した。輸出激減に苦しむ大手メーカーなどの資金需要が膨らんだためだ。
政府はこんどの追加経済対策で、政投銀が融資や保証をできる枠として新たに13兆円を追加した。資金繰り支援での存在感はさらに増すだろう。
国会で審議中の産業活力再生特別措置法の改正案が成立すれば、政投銀が政府の保証を受けて、企業への出資も始めることになる。
昨秋、株式会社となった政投銀は、2013〜15年に完全民営化される予定だ。それを目標に貸し出し資産の圧縮を進めようとしていた矢先に、危機が起きた。いま、民営化路線に逆行する政策金融の扱いが急増している。
平時には、政投銀は政府系の役割を終えたとして民営化が求められた。その大枠は変えるべきではない。だが、世界経済の低迷が数年に及ぶとの見方が強まっているいまは、政策金融の担い手が必要なのも確かだ。
なし崩しで民営化を中止にするのでなく、危機対応期間を決めたうえで、民営化を延期するなど、スケジュールや方法を見直すべきではないか。