2007-10-22
■[編集]ライトノベル雑誌は何が目的で作られているのか考えてみる
「id:m_tamasakaさんへ質問です。電撃hp、ザ・スニ、ドラマガといった雑誌は何が目的で作られているのでしょうか?」
雲上四季:小説系雑誌の存在価値とライトノベル雑誌に対する希望
「雲上四季」の秋山真琴さんからいただいた質問です。今日はライトノベル雑誌の目的について考えてみたいと思います。
まずその前に軽く一当て。ライトノベルを愛好している若い人たちは知らないと思いますが、小説誌がめちゃくちゃ売れていた時代というのがかつてありました。最盛期である高度経済成長期には、100万部を超える発行部数の小説誌があったくらいです。今はこんなことになってしまっていますが、かつては小説誌が小説を牽引していたということは知っておかないと、議論がおかしなところに行きかねません。
なお、小説誌が売れなくなったのは、戦後の2度にわたる文庫本ブームが原因であるようです。単行本は売れるが雑誌が下げ止まらないという、現在のマンガ業界が抱える問題は、はるか昔に小説の世界でも起こっていたのです。
さて。続いて「雑誌」というフォーマットからライトノベル雑誌の役割について考えてみたいと思います。Wikipedia:「雑誌」内の歴史の項目によりますと、雑誌は「百科事典の誕生と同様、新しい知識や情報、視点を広く一般に開示、紹介するものとして出発した」そうです。
ライトノベル雑誌の場合、「新しい知識」とは雑誌に掲載される新作。「情報」とは新刊やイベント、メディアミックスの情報。「視点」とはレーベルカラーに基づいた誌面の構成のことをそれぞれ指すと思われます。
この切り口から見た場合、ライトノベル雑誌の目的とは (1)作家に新作を書かせる (2)単行本や投げ込みチラシではフォローしきれない情報を発信する (3)そのレーベルが何を考え、今後どのような展開をしていくつもりであるのかを表明する、ということであると思われます。
(1)についてのみもう少しだけ掘り下げておきます。雑誌(ここで言う「雑誌」は、ライトノベル雑誌に限りません)には (a)締め切り発生装置 (b)原稿料発生装置 という側面があり、また雑誌に新作を書かせることには (c)作家の風化を防ぐ という効用があります。
(a)締め切り発生装置:締め切りがないと書けない作家はたくさんいます。単行本より厳格な定期刊行物の締め切りを課すことで、原稿を書かせることができます。
(b)原稿料発生装置:単行本が出る前に作家が経済的に干上がってしまうのを防ぎます。笠井潔さんのこちらのコラムもご覧ください。
(c)作家の風化を防ぐ:現代は娯楽の数と消費スピードが異常に上がっているので、なんらかの形でこまめに露出を行わないと、あっという間に忘れられます。
長くなってきたので、ここでいったん切ります。
■[編集]続・ライトノベル雑誌は何が目的で作られているのか考えてみる
前のエントリで「ライトノベル雑誌の目的」とは (1)作家に新作を書かせる (2)単行本や投げ込みチラシではフォローしきれない情報を発信する (3)そのレーベルが何を考え、今後どのような展開をしていくつもりであるのかを表明する ということであろうという話をしました。
ただ、のっけからなんですが、商業誌であるからには当然のこととして「利益を出す」という本音の部分での目的もあります。雑誌は大きく分けて(a)雑誌そのものの売り上げ (b)広告収入 (c)単行本の売り上げ (d)関連商品の売り上げ の4種類の組み合わせから利益を得ています。
ちなみに、世の中のほとんどの雑誌は(a)だけでは赤字です。マンガ誌や小説誌は(b)とはあまり縁がないので、足りない分は(c)か(d)でサポートする必要があります。
さて。ここからはライトノベル雑誌4誌を2つのグループに分けて、その性質の違いについて考えてみたいと思います。
月刊ドラゴンマガジン:1988年創刊・月刊
富士見ファンタジア文庫:1988年創刊
ザ・スニーカー:1993年創刊・季刊→隔月刊
角川スニーカー文庫:1988年創刊
電撃hp:1998年創刊・季刊→隔月刊
電撃文庫:1993年創刊
Novel JAPAN→キャラの!:2006年創刊・月刊
※ファウストは文芸誌を自称しているのと、いろいろややこしいので除外します。
ドラゴンマガジンとNovel JAPANは、「レーベル立ち上げとほぼ同時に創刊」した「月刊誌」です。これはつまり、これらの雑誌は自レーベルから毎月リリースされる新刊の情報を、積極的にサポートすることを前提に作られている、ということを意味します。なお、利益は主に月刊連載で書き貯めた作品の単行本収入からのものを見込んでいると思われます。
ザ・スニーカーと電撃hpは「レーベル立ち上げの5年後に創刊」された「隔月刊(はじめは季刊)誌」です。この成り立ちから、これらのレーベルは元々雑誌に依存していないことがわかります。また隔月刊のスピードでは原稿が溜まるのが遅すぎるので、連載作の単行本の利益に依存するのは難しいと思われます。
ザ・スニーカーと電撃hpの目的はおそらく、単行本や投げ込みチラシではフォローしきれない情報を、後方支援的にサポートすること。そして単行本ではできないことを、雑誌を使ってやることだと思います。後者のわかりやすい例としては、「電撃コラボレーション」や「公式海賊本」をあげることができます。
なお、単行本だけでは足りないであろう利益は、関連商品の誌上通販でまかなっているのではないかと思われます。公式海賊本は趣味と実益を兼ねたとても良い企画だと思います。
まとめます。ドラゴンマガジンとNovel JAPANは、原稿を集めるのと情報を発信するのを、積極的に行うことを主な目的とした雑誌。ザ・スニーカーと電撃hpは、レーベルを後方からまったり支援しつつ、単行本ではできないことをやるのを目的とした雑誌だと思いました。秋山真琴さん、いかがでしょうか?
※追記
途中から電撃hpの話だけになり、ザ・スニーカーを放置した文章になっていたので、ザ・スニーカーのほうは棒線で消しました。改めて読み返してみると、えらく無個性でなに考えてるかわからない雑誌ですね。ザ・スニーカー。