岩本康志氏が、ブログで麻生政権の追加補正予算を批判しています。
一時的な支出で経済成長(つまりは恒久的な所得増)が実現するような事業があるならば,何も景気が悪いときだけ補正予算で実行することはない。どんなときでも当初予算で実行すべきものだが,そういう事業は希少である。補正予算編成の際に急いでかき集めるときだけ,すばらしいアイデアがぽんぽんと湧いてくるわけではない。結局,景気対策で経済成長率が高まるという期待がそもそも経済学的におかしいのであり,期待は裏切られるだろう。痛み止めで,前より健康にはなれない。
私の知っているかぎり、今回の補正予算について経済学者がウェブ上でコメントしているのは(私以外には)これが唯一です。岩本氏も指摘するように、麻生内閣の3度にわたる補正予算の最大の問題は、財政赤字ではなく、それが「恒久的な所得増」につながらないことです。アメリカでは、オバマ政権の巨額の財政政策を多くの経済学者が批判し、これにサマーズNEC委員長やローマーCEA委員長が反論して、財政政策の効果についての学問的な論争が行なわれています。
 
サマーズも「財政刺激の効果には疑問もあるが、今のような時期には小さいほうに間違えるより大きいほうに間違えるほうがましだ」といっています。ローマーは、かつて「財政政策は1930年代の大恐慌には役に立たなかった」という実証研究を発表しました。政権の外で財政刺激を支持している数少ない経済学者であるクルーグマンも「金融政策がきかないのだから、財政しかない」という消極的支持です。つまり「財政政策の景気刺激効果は疑わしい」というのが、現代の経済政策の「新しいコンセンサス」なのです。

ところが麻生首相は、逆に「ドイツは財政政策の必要性がわかっていない」と他国を侮辱する始末。これまで政権内で歯止めの役割を果たしてきた与謝野財務相も「改宗した」と財政タカ派路線を一時的に放棄し、中川秀直氏などの「上げ潮派」は、もっと激しく景気刺激をやれと主張しています。民主党も20兆円の経済対策を提案しており、与野党あげての「バラマキ翼賛体制」になっています。

ここで歯止めをかけないと、不況が長期化したらさらに財政支出が拡大し、生産性が低下して長期停滞が悪化するおそれが強い。ところが新聞は財政赤字を心配するばかりで、財政支出の効果や生産性の低下という肝心の問題についてはほとんど議論も起こらない。これは問題がかなり専門的で、ジャーナリストの知識が追いついていないことが一つの原因だと思われます。

こういうとき、一般の読者を想定しないで、専門家どうしが論争できるウェブは貴重です。「アゴラ」は、そうした場を提供する目的でつくられました。アクセスも1日最大1万ユーザーを超え、経済週刊誌と同じぐらいの効果が見込めます。メンバーにならなくても、一時的にアカウントをとれば投稿できますので、投稿したい方は管理者までご連絡ください。