【検察と政治】
国際情報誌「SAPIO」「誰が総理を殺すのか!? 特集の1つ「疑獄史」ー数多の政権を葬り去ってきた検察という名の「権力の暴力装置」というタイトルのSAPIO政界特捜班のレポートを検証する@
●SAPIOの記事は偏見
国際情報誌「SAPIO」4/22には「誰が「総理」を殺すのか!?という特集記事があり、その1つに「疑獄史」<独走第36弾 そしてまたも旧田中派が潰された><数多の政権を葬り去ってきた検察という名の「権力の暴力装置」>という見出があった。。SAPIO政界特捜班(以下、政界特捜班)にかかっては「刑事司法の要」「公訴権を独占している」検察も形なしの格好であるが、そんな検察であった事実はない。明らかな政界特捜班の偏見記事である。
●谷川東京地検次席検事
さて、政界特捜班は、<数多の政権を葬り去ってきた検察という名の「権力の暴力装置」>の中でこう書いていた。
「小沢代表の秘書を政治資金規正法違反容疑で起訴した日、東京地検の谷川宏太次席検事は記者会見で異例のコメントを出した。
「政治資金規正法は、政治とカネを国民の不断の監視と批判の下に置き、議会制民主主義の根幹を成す。ダミーの政治団体を使って、長年にわたり特定の建設業者から多額の寄付を受けてきた事実を国民の目から覆い隠した。規正法の趣旨に照らして、看過できない重大悪質な事案と判断した。」
●郷原信郎・桐蔭横浜大学法科大学院教授
「しかし、元長崎地検次席検事の郷原信郎・桐蔭横浜大学法科大学院教授は「法解釈のねじ曲げがある」と捜査のあり方を厳しく批判する。
「政治資金規正法は政治腐敗防止法ではない。献金は賄賂ではなく、国民の浄財であるとの考え方の下に、政治資金の流れを透明にしてよい方向に持っていこうという法律です。ところが、検察の会見では、献金を賄賂と同じように捉えている。これでは検察が規正法の罰則を自由に適用、政治家を摘発できることになり、検察が立法府より優位に立ってしまう」
政界特捜班は谷川次席検事と郷原教授の正反対の見解を示した。
郷原教授は77年に東京大学理学部(地質学)卒業、80年司法試験合格、83年、検事任官。その後、公正取引委員会事務局審査部付検事、東京地検特捜部検事。広島地検特別刑事部長、法務省法務総合研究所研究官、01年4月から03年3月まで長崎地検次席検事、東京地検八王子支部副部長などを歴任、03年- 桐蔭横浜大学大学院特任教授就任 、04年法務総合研究所総括研究官兼教官、05年、 桐蔭横浜大学法科大学院教授(派遣検事)、コンプライアンス研究センターセンター長就任、06年、検事退官、弁護士登録。
郷原氏は弁護士開業して僅か3年、またたく間に東京3会屈指の有名弁護士に伸し上がった。従来の有名弁護士の多くと異なり話題づくりとマスコミ利用に長けた人といえる。
●SAPIOにある郷原氏はいただけない
政界特捜班の記事にある「法解釈のねじ曲げがある」「検察の会見で献金を賄賂と同じようにとらえている。これでは検察が規正法の罰則を自由に適用、政治家を摘発できることになり、検察が立法府より優位に立ってしまう」というのは本人が言ったとすればだが、到底いただけない。
というのは、私は昭和32年以来「特捜部は法務大臣の指揮権発動がなければ政治家に対しても『目立ちすぎ、儲けすぎ、やり方が国民の常識からみてひどきずるケースは立件すると考えないと間違う。
特捜部が犯罪ありと捉えれば刑事司法の要として立法府より優位に立ち刑罰権を行使する』と教えられた基準と異なるからだ。検察の立件基準は50年前と基本は少しも変わっていないのである。
郷原教授は小沢氏の秘書が逮捕された直後から、「同秘書の政治資金規正法は成立しない」などと検察批判を開始し、それが夕刊紙、週刊朝日などに大々的に取り上げられ、一躍マスコミの寵児となった。特捜OBとして検察を評価するより、批判した方が話題性もあり、マスコミに取り上げられる確率が高い。
一大学教授、弁護士の見解が、あたかも、東京地検特捜部が大きなミスを仕出かしたかのように受け取れる書き方をしたメディアもあった。政界特捜班の記事がその代表例だ。
私は「〇〇罪は成立しない」という有名大学教授の鑑定書を、裁判所に提出しても、裁判官は一顧だにせず、提出者に有罪判決を出した例をいくつも知っている。裁判所も検察と同様に基本は変わっていないのである。だから私も郷原教授の見解も有名教授の鑑定書の類として評価していない。
今、マスコミ業界は各社が生き残りをかけた熾烈な戦いを繰り広げている。それと郷原教授の見解を1部マスコミが全面的に支持しているのと無関係ではない。一部マスコミは検察や裁判所に変わってもらわないことには維持が難しくなっているのではないか。
郷原氏は35期、この期には黒川弘務法務省官房審議官、林真琴人事課長、佐久間達也東京地検特捜部長、水野谷幸夫刑事部長、稲川龍也公判部長らかいる。この人たちはコースに乗っている人たちだ。
郷原教授は弁護士としては成功しているが、検察官としては傍流だった。
小沢氏の秘書逮捕、起訴を指揮した佐久間特捜部長と「法解釈のねじ曲げがある」という逆の見解の郷原教授は同期なのである。
私は佐久間氏の起訴が伝統にかなっており、正しいと判断している。検察側は裁判など手続きの中で小沢氏秘書の事件内容はきちんと説明すると思っている。郷原教授と同教授を支持する1部マスコミは佐久間氏を批判し、刑事司法に新しい流れを作ろうとしている感じだ。
小沢氏の秘書の事件は政権を握っている自民党、経済秩序維持が役割の検察と新しい流れを作ろうとする小沢民主党とそれに便乗しようとする勢力の戦いのように私には写る。
●SAPIO政界特捜班の記事は不正確
政界特捜班の言う、「行政機関の一部門で国民のチェックの及ばない検察が立法府より、力を持てば「検察ファッショ」の危険がある。」「検察ファッショ」の危険があるなど絵空事だ。そのために検察庁法は国民の代表として法務大臣に個々の事件に対する検事総長への指揮権を付与しているし、被告となった人は公訴取り消し、公訴棄却の申立も可能だ。
個々の検察官の公訴権の行使が独善とさせない歯止めに法務大臣の検事総長に対する指揮権のほか、検察官同一体の原則も導入されているのである
政界特捜班は検察が行政権に属しながら準司法機関として独立性も保持されてきた公訴独占機関であることを変えようとしているように思う。
だが、この見解は明らかに少数派だ。
小沢氏の秘書の事件は当然捜査をしないといけない事件だ。
政界特捜班は検察の仕組みを壊そうと「疑獄史」<独走第36弾 そしてまたも旧田中派が潰された><数多の政権を葬り去ってきた検察という名の「権力の暴力装置」>というタイトルに合わせた答えを無理に出した感じを強く抱く。