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見えない傷:いじめ後遺症との闘い/上 10年続く悪夢

 ◇閉じこもる部屋、窓枠に画びょう

 06年6月、インターネット上に「いじめ被害後遺症同盟」というサイトが生まれた。管理人は名古屋市の女性(26)。ネット上の名はカナ。思春期にいじめを受け、精神障害を患って数年前から実家2階の厚いカーテンを閉め切った自室に引きこもっている。

 「いじめ後遺症に苦しむ人は大勢いるはず。私と同じように吐き出す場所がないんじゃないか」。社会との唯一の窓口だったネットでつながりを探した。

 サイトは、仲間のニックネームやメッセージが記された「同盟名簿」といじめ体験を語る場の「掲示板」で構成。カナさんも「いじめにより、心の病気になって11年。人生の半分を病気で過ごしています。今でも毎日のように当時の夢を見ます。忘れることはできません」とメッセージを寄せる。名簿登録数は現在270を超える。

    ◇

 カナさんの部屋。窓枠に針を上にびっしりと画びょうが並ぶ。

 <中学時代に自分をいじめた同級生たちが、窓に物を投げつけたり、家の壁をはい上がって部屋に入ろうとする>

 そんな夢を見ないように画びょうの背を接着剤で張り付けた。それでも自分の悲鳴で目を覚ます。

 体に最初に変調を覚えたのは中学入学時。小学校時代、「友達を奪った」と自分をいじめた同級生とクラスが同じになり「またいじめてやろうか」と言われ、動悸(どうき)が激しくなり、過呼吸で息ができなくなった。

 いじめは拡大し、中学3年時がピークだった。朝、教室に入ると机にゴミが載り、椅子にはセロハンテープで画びょうが張り付けてあった。筆箱の中はのりでベトベト。授業中も紙飛行機の的にされた。うまく息ができない苦しさを軽減しようと首や手足をつめでかきむしると、その仕草をまたからかわれた。

 カナさんの変調に対し、親も教師も「大げさだ」「その程度のことで」と冷淡だった。その後、進学した高校で不登校になり、通信制高校に入学。卒業近くになったころ、「自分は病気。治したい」と親に訴え精神科の病院に足を運んだ。

 行く先々で言い渡される病名はさまざま。自律神経失調症、過呼吸症候群、パニック障害、不安神経症……。精神障害者保健福祉手帳を交付され、今は2週間に1回、病院に通う以外は一歩も家の外に出られない。

 大阪人間科学大学大学院の原田正文教授(精神医学)は「自己の存在を確立すべき思春期に存在そのものを否定されるのだから、それだけ傷は深い。さらにその原因が自分にあるなどと言われ、ますます自信をなくすことも多い」と指摘する。

    ◇

 過去のいじめが心の深い傷となった人たちがいる。引きこもり、病気を患い、時には自殺にさえ至る。だが、いじめから長い月日がたっているため理解は得られず、その孤独が苦しみを増幅する。いじめ後遺症と闘う人たちの姿を追った。【飯田和樹】

毎日新聞 2009年4月13日 東京夕刊

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