2009年4月13日17時34分
和室のセットを使って、納棺師の仕事が実演された=12日、福岡県桂川町の善光会館、山本壮一郎撮影
映画「おくりびと」の米国アカデミー賞外国語映画賞受賞で納棺業者が注目されている。遺体に触る仕事として敬遠されがちだったが、映画では永久(とわ)の別れの演出者として描かれ、イメージが一変。不況下の就職難も手伝って「やりがいのある仕事」と求人への応募が相次いでいる。
両手を組んで布団に横たわる故人役の女性。その手をもみさすり、硬直を解いて開かせた後、肌が見えないよう浴衣から着物に手際よく着せ替える。福岡県桂川町の葬儀場で12日、湊敏宏さん(37)、麻美さん(25)夫妻が客を前に納棺サービスを実演した。
「何万円か高くなっても、自分のきれいな死に顔を家族の思い出に残したい」「家族を送る時にしてあげたいし、自分にもしてほしい」。実演に見入っていた70代の女性2人は高い関心を示した。
湊さん夫妻が勤めるのは同県飯塚市の納棺業者「セレモ九州 要(かなめ)」。麻美さんの父親で、冠婚葬祭の司会業者だった服部信和社長(57)が99年に開業した。
湊さん夫妻はプロの手品師だった。華やかだが不安定な仕事に見切りをつけ、1年前に転職。「どちらも人に喜ばれる仕事だが、本物の感動を与え、涙を流すほど感謝されるのは、こちら」
列車に飛び込んで自ら命を絶ち、面影を失った男性の顔を針と糸で縫い、目鼻や口元を整えても遺族は本人だと認めなかったが、故人愛用の眼鏡を掛けてあげると「お父さんだ」と泣き出した。
100歳を超える大往生では遺族も和やかな雰囲気で、「きれいになってよかったね」と明るく送り出した。
帰り際に玄関先で遺族から「ありがとうございます」と地面に頭をこすりつけて感謝されたこともあれば、興奮状態の遺族から「(遺体に)触らないで」「帰ってくれ」と追い返されたこともある。