県に対しては、スタッフ3人が昨年11月7日、「会計検査院から指摘された不正経理について」との名目で取材。「架空口座が私的に使われている」と質問し、「把握していない」との回答を受けた。
しかし県は、「土木事務所や該当工事などを具体的に挙げて質問されなかったし、聞いても教えてくれなかった」(広報課)という。
日テレ総合広報部は「取材の詳細については申し上げられない」としながらも、「金の流れについてさまざまな人間が検討し、提示された証拠にも整合性があると判断した」と放送に至った経緯を説明する。
県は調査終了後の2月18日、証言内容について日テレ側に再確認を要請。日テレ側が蒲容疑者に再取材したところ、「裏金を送金した事実はない」と証言を翻したため、報道した内容の支えを失ってしまった。
実際、証言と事実関係には“矛盾”があり、裏付け取材によって証言の信憑(しんぴょう)性を疑うことは可能といえた。
蒲容疑者は架空工事でつくった裏金について、「(昨年)11月5日に送金した」「年間500万から1000万」などと証言していたが、蒲容疑者の会社が県から受注した工事は18年度と19年度に1件ずつで、20年度は1件もなかったのだ。
日テレ側は3月1日放送の「バンキシャ!」で、「視聴者、岐阜県と県議会にご迷惑をおかけしました」と陳謝。5日には、足立久男報道局長ら幹部が県庁を訪れ、古田肇知事に「取材の最後の詰めが甘かった」と頭を下げる事態となった。
同社は番組担当者の処分も検討。一方、第三者機関「放送倫理・番組向上機構(BPO)」の放送倫理検証委員会は番組を審理することを決め、特別調査チームが日テレ側から話を聞くことにしている。
情報提供の落とし穴……「特ダネほど慎重に」
今回の一連の問題は、マスコミの取材手法や報道のあり方について大きな課題を投げかけた。
「逮捕状を執行するほどの事案だったかは疑問だが、軽率な取材と報道が刑法犯を生んでしまった。日本テレビはだまされた被害者ではなく、倫理的責任がある」
こう指摘するのは、立教大社会学部の服部孝章教授(メディア法)だ。
服部教授は「放送前の確認にもっと手間をかけられたのではないか。人や時間など労力をかけないとミスは起こる」とし、「今回の事件を受けて、各マスコミが内部告発などの裏を取って報道する手法を敬遠するようになってしまえば、社会全体にとって大きな損失だ」と話した。
複数の民放関係者によると、「バンキシャ!」のように、テレビ局の正社員と番組制作会社のスタッフがチームを組んで取材すること自体は、珍しいことではない。
それだけに、「制作会社やフリーの記者を使って取材しても、放送できるかどうかの最終チェックはテレビ局の社員が責任を持ってやることが重要になる」(民放の報道番組プロデューサー)という。
一方、報道機関には一般から情報が寄せられ、ネット上にも多種多様の情報があふれている。中には取材の端緒となり、スクープにつながる良質な内容の情報もあるが、単なる伝聞や誹謗(ひぼう)中傷を目的とした悪質なものも少なくない。
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