二〇〇七年の新潟県中越沖地震で被災、運転停止中の東京電力柏崎刈羽原発7号機の運転再開に関し、泉田裕彦知事と地元の柏崎市長、刈羽村長が話し合った。知事は態度を明らかにせず、判断を先送りした。
知事は今月七日、「安全性はおおむね確保されている」と述べ、運転再開を認める姿勢と受け取られた。国は既に東電の再起動計画を妥当とし、市長、村長も容認方針を示していた。三者会談で地元了解がそろい、運転再開が決まるとみられていただけに意外な結果だった。
知事は「お二人の意見を整理したい」とし、県議会の意見を聞く意向を示したという。知事は七日、原発について「この世で造ったもので完全なものは存在しない」などとも発言している。地震に対する安全性に確信が持てず、議会の意向確認など環境整備も十分でないということなのだろう。
折しも国の原子力安全委員会が先に閣議報告した〇七、〇八年版原子力安全白書は、原発の安全審査に関し「事業者の申請内容を適切に検討する体制づくりが必要」と注文を付けた。柏崎刈羽原発の停止を受けた記述だ。地震後の対応に追われ白書は二年分がまとめられた。
中越沖地震の震源とされる海底断層は6、7号機の安全審査では活断層とされず、後に活断層とされたものの公表されなかった。さらに地震発生後、より大規模な断層と評価が変えられた経緯がある。
白書は「地震は自然現象で、全容は把握できていない。自然現象に謙虚に学び、常に最新の知見を安全確保に反映すべき」と強調している。
白書が指摘する通りだ。安全審査の体制だけでなく、原発の耐震性確保策そのものにも、より厳しさが求められよう。
安全白書の前に、〇八年版原子力白書も閣議報告された。こちらは原発の稼働率低迷などを踏まえ、「原子力が社会の期待に十分応えていない」とした。稼働率は〇七年度で60・7%にとどまる。大きな要因が柏崎刈羽原発の停止だ。白書は耐震安全性を確認し、効率的な運転をすべきと訴えている。
一方で白書は、〇八年は国際会議などを通じ、原発が地球温暖化防止に役立つとの認識が広まった年とした。原発への追い風を生かし切れない焦りが感じ取れなくもない。
だが、日本ではやはり原発への期待の一方で懸念も根強い。信頼を得る地道な努力が引き続き重要ということだろう。
三菱UFJ証券システム部の元部長代理が顧客ほぼ全員の個人情報を不正に取得し、その一部を名簿業者に売却していたことが発覚した。証券業界の信用を大きく失墜させる前代未聞の不祥事である。
三菱UFJ証券によると、元部長代理は顧客情報のデータベースへアクセスできる権限を悪用し、同社のほぼ全顧客に当たる約百四十八万人分の個人情報を取得。うち四万九千人分を名簿業者三社に計三十二万八千円で売却、名簿業者は不動産会社や商品先物会社など十三社に転売していた。
売却されたのは、昨年十月三日から今年一月二十三日の間に新規に口座などを開設した顧客の情報で、名前や住所、勤務先、年収区分などが含まれていた。特定の権限を持つ社員に対する監視の不備、ずさんな管理体制が露呈したといえよう。
元部長代理はほかの社員のIDとパスワードを勝手に使って情報を引き出していたことも分かった。動機については消費者金融に借金があり、返済に困っていたという。警視庁は同社からの刑事告訴を受け、元部長代理を不正アクセス禁止法違反の疑いでも捜査する方針だ。
二〇〇五年に個人情報保護法が全面施行されて以降も、金融機関での情報流出が後を絶たない。今回の名簿業者への情報売却の背景には、個人情報が入手しづらくなる中、広告業界の根強い需要を商機としたい名簿業界の実情があると言われる。
それにしても個人の財産情報を扱う証券会社の生命線でもある情報管理の甘さは一体どうしたことか。社員のコンプライアンス(法令順守)徹底と、顧客情報の管理状況について業界としても再点検が必要だろう。再発防止に向け、より厳格な内部管理体制の強化が求められる。
(2009年4月12日掲載)