2009年02月08日

オバマ政権の外交戦略は米国を救えるのか?多極化する世界において羅針盤を失った米国の外交は挫折する。

ブッシュの8年を一言でいえば「単独行動主義」である。排出ガス規制を取り決めた京都議定書に調印せず離脱、世界から孤立する道を選んだ。枢要な同盟国である独仏の意向を無視し、アングロサクソン国家だけでイラク戦争を始めた。我が国に対しても従軍慰安婦問題で非難決議を出し、北朝鮮のテロ指定国家を解除した。

米国は、冷戦終結以後、独・仏・日など中核的同盟国の意向を無視し、傍若無人に振る舞うようになった。米国の覇権が独仏日等同盟国の支えで維持されていることを失念した。覇権の土台を自らの手で掘り崩し世界から孤立した。

我が国は「長年の対米従属の奴隷的体質と親米保守である外務官僚や歴代自民党内閣の事無かれ主義」があいまって、米国の一国行動主義の悪弊に目をつぶり、我慢しながら米国を支えた。独仏は「イラク戦争への参戦拒否、アフガン戦争への戦闘部隊派遣拒否」など米国からの離反意思を行動で示した。米国が独断先行して行うロシアへの挑発行為について独仏は、ヨーロッパへの脅威をもたらす所業とみなした。米国が火をつけたグルジア戦争を終わらせたのは、独仏とロシアであった。ヨーロッパの問題は独仏とロシアが協議して決める、米国の介入を許さない旨行動で示した。

米国は、独・仏・日という主要な同盟国を軽視する反面、共産党一党独裁国家である中国に「異常接近」して蜜月関係を築いた。今や独・仏・日などこれまでの主要同盟国は眼中にないようで「米中2国間で世界を取り仕切るG2構想」さえも公然と唱えるようになった。「中国さえ取りこんでおれば、米国覇権は安泰」と錯覚又は妄想している様子である。

(以下は、バイデン副大統領が2月7日、ミュンヘン安全保障会議で発言した骨子である。2月8日付け日本経済新聞から抜粋)

第1:米政権の外交スタンス

対同盟国・・・話を聞き、相談する。が、負担も要請
対イラン・・・対話の用意がある。現在の道を進めば(イランは)孤立すると警告
対ロシア・・・ロシアとの間に生じた溝を修復し、協力を拡大。南オセチアなどの独立は認めず
ミサイル防衛・・・コストに見合うと判断すれば開発を継続、ただ、ロシアと相談しながら推進
武力行使・・・外交、開発、民主主義などに力点。いざとなれば同盟国にも武力行使を要請


以上、ブッシュ政権が行った同盟国軽視の一国主義を見直すことと、ロシアやイランとの問題は、話し合いによって事態の収拾を図るという路線を示した。特に、ロシアとの戦略兵器削減新条約の締結やポーランド・チェコへのミサイル迎撃システム配備について「ロシアと相談しながら推進する」としたことは、ロシアをステークホルダー国家又は戦略的に提携できる国家とみなしたと考えてよい。バイデンが若かりし頃、ソ連邦との第二次戦略兵器制限交渉(SALT?)で実績を上げ「外交のバイデン」という名声を得た成功体験が自信となっているのかもしれぬ。

バイデンは独仏に対し「独仏も同盟国としての義務を果たすべきだ。自らは安全地帯にいて、対テロ戦争で汗をかいている米国に文句をいうだけでは困る。相応の負担をしてもらいたい」と注文をつけた。アフガンへの軍隊の増派をしぶっている独仏を牽制したものであろう。

なお、バイデンのロシア・イラン向け発言は、前日(6日)、ロシアのイワノフ外相並びにイランのラリジャニ国会議長がミュンヘン安全保障会議で演説した以下の意見に答えたものである。

(以下、2月7日付け日本経済新聞・夕刊より抜粋)

第2:ロシア・イワノフ外相並びにイランのラリジャニ国会議長の発言

(1)ロシアは第一次戦略兵器削減条約(START1)が年末に失効するのを念頭に「米政権の建設的な反応を期待する。

(2)米国がポーランドとチェコにMD施設(ミサイル迎撃システム)を配備しないのなら、ロシアも(自国領の)カリーニングラードへのミサイル配備を見送る。

(3)イランは(演説の大半を米国批判に費やしつつ、中東に特使を派遣する米国の方針について)話を聞く姿勢であり、前向きのシグナルだ。(議長は米国の外交政策について)これまで多くの橋を焼き尽くしてきたが、新政権はこれを復元する千載一遇のチャンスを迎えた。ボクシングからチェスに場を変えれば、対話は可能(との認識を示し、直接対話の実現に含みを持たせた)


以上、ブッシュ政権下で敵視されたロシアとイランは、対話を重視するオバマ政権が誕生した機会をとらえ「反転攻勢に打って出た」ということができる。「無益な喧嘩はしたくないから、米国も話し合いに応じなさい」といっている。

(以下は、2月8日付け日本経済新聞論説副委員長泉宣道の「米中・G2時代の幕開け」と題する記事の抜粋である。)

第3:米国側が中国に対し「米中(G2)が世界の覇権を共同して担おう」と提案

1.オバマ大統領は1月30日、就任後初めて中国の胡錦涛国家主席と電話し「米中関係ほど重要な二国間関係はない。」と伝えた。

2.1月12日、北京の人民大会堂で行われた米中国交樹立30周年記念晩餐会に出席したカーター元大統領は「米中は世界で最も重要な外交関係になった」とあいさつした。カーター大統領に同行したブレジンスキー元大統領補佐官は「米中両国によるG2サミットを開催すべきだ。世界を変えることができるのはG2だ」と両国首脳が定期的に会談するよう提唱した。

3.G2サミット構想は昨夏、米国のシンクタンク、ピーターソン国際経済研究所のフレッド・バーグステン所長が外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」で提唱した。

ブレジンスキー元大統領補佐官(81歳)は、オバマ大統領が学生時代師事した人物で、オバマ政権誕生に大きな影響力を果たした。「オバマはブレジンスキーの傀儡だ」という意見が一部にある。オバマ政権の外交政策を動かす人物とみなされている。米国における「反ロシア・親中国」派の大御所といってもよい人物だ。

これに、アーミテージやジョセフ・ナイ(駐日米大使)らの「中国取り込み派」が加わるから、オバマ政権の北東アジア外交の骨格が見える。付加すると、ブレジンスキーの日本観は「日本を保護国と呼ぶ。日本がアジアの大国になることは不可能であり、日本はひたすら経済成長に力を注ぎ、その経済力を国際社会に寄付してもらう存在になるべきだ」と主張する。(ブレジンスキーの見解はウイキぺディアより引用)

ブレジンスキーは正直な男だ。だから、米国支配層が考えている「日本は永遠に米国の属国たるべし」と本音を語っている。これが敗戦から64年後の日米関係の実像なのだ。日本経済新聞を初め親米保守は「片務的な日米同盟を、双務的な日米同盟へ」というが、彼らが対等な日米同盟を考えることはない。日米安保条約を双務的なものに改造し「自衛隊を戦場に動員し、ぼろ雑巾の如く使い捨てる」という魂胆なのだ。

なお、オバマ大統領を初めカーター元大統領やブレジンスキー元大統領補佐官など米民主党を動かせる立場にある戦略思想家が「米中関係は最も重要な関係で、米中共同して世界を管理しよう」というのも不思議ではある。言論と信仰を弾圧し、腐敗と血で汚れた中国共産党指導部を「最大の同盟国」と称賛するのであるから恐れ入る。同じ体質を備えた「同類」ということなのだろう。

第4:矛盾する潮流がしのぎを削る米外交

バイデン副大統領は、長年、上院外交委員長を務めあげた苦労人である。ロシアへの偏見も少ない。ロシア側からは、旧ソ連邦共和国(バルト三国を除く)をロシアの勢力圏として容認し妥協点を見出す外交を行うのではないかと期待されている。

一方、ブレジンスキーは「ロシアを敵とみなし、米中で世界を支配しよう」という立場であるから、バイデンとは観点が異なる。「相容れない外交」がバラバラになされる可能性がある。ヨーロッパ・中東戦線はバイデンが、東アジアはブレジンスキーが取り仕切るかもしれぬ。冷戦終結後、ヨーロッパは雪解けモードに転換したのに、北東アジアは冷戦体制が温存されたのと同じ構造だ。

第5:軍産複合体はどう動くか?

ベンジャミン・フルフォードは「アメリカが隠し続ける金融危機の真実」青春出版社の189ページで、興味ある事実を報告している。(抜粋)

(1)アメリカ国内では軍産複合体によるものと考えられる不穏なニュースも流れている。オバマ政権の副大統領となる民主党のバイデンが、選挙演説の中で「オバマの就任後半年以内に国際的危機が発生し、オバマはジョン・F・ケネディのように、試練に立たされる」と発言。キューバ危機に対応したケネディ大統領を引き合いに出しなんらかの危機の発生を匂わせた。

(2)また、パーウェル元国務長官も「オバマ就任翌日の1月21日か22日に危機が起きる。それがどんなものか今は分からない。」と唐突に奇妙な発言を残している。

(3)さらに、軍産複合体の影響力の強い国防総省の顧問団の委員長も「次の大統領は就任から9か月以内に、大きな国際危機に直面しそうだ。そのため次期(オバマ)政権は、就任から30日以内に、国防総省の主要ポストの人事を決定する必要がある。」と指摘したという。

(4)これは力を弱めている軍産複合体勢力による「いざとなれば戦争のカードを切ることができる」というブラフではないかと考えられる。


以上について、経済的大混乱に陥っている庶民の不安心理が生み出した「根も葉もないうウワサ」と見ることもできる。だが、仮に軍産複合体に属する彼らが、意図的に流布した情報であるとすれば、どのように理解すべきか?

昨年暮れ頃、フルフォードが紹介している件とほぼ同じ内容の伝聞情報について、米国に在住している読者から教えていただいたことがあった。当時、筆者は「ドルの大幅な切り下げ」又は「新ドル紙幣の発行等によるドル紙幣の紙切れ化を示唆しているのではないか」と推測した。オバマは金融危機を乗り切るために、第二次ニクソンショックというべき「オバマショック」を準備しているのかと疑ったことがある。

だが、情報源が、いずれも「軍産複合体関係者」ということになると、風景は変わってみえる。フルフォードがいうように「戦争関連の大事件」を予告したものと考えるべきではなかろうか。

(オバマはなぜ、ゲーツ国防長官を留任させたのか?)

オバマは、国防長官を留任させた理由として、イラクからの撤退を円滑に進めるためと、戦争の継続性にとって必要と説明していた。誰もが「なるほど」と思った。しかし、イラク・アフガン戦争を取り仕切っているのは現地の司令官である。国防長官が交代しても問題はない。ラムズフェルド前国防長官はイラク・アフガン戦争を企画・立案した責任者である。しかるに任期途中で交代しても何ら問題は起きなかった。ブッシュ政権が任命したゲーツを民主党のオバマ政権が連続して使うには、もっと違う隠された理由があるのではないかとの疑問がわく。たとえば「新らたな戦争計画を隠密裏に検討している最中だから、途中でメンバーを入れ替えるのは適当でない」とかの理由があるのではないかとの疑問がわく。

(イラン空爆は、イスラエルの判断と意思でいつでも決行できる)

年末だったか、イランを空爆したいと欲するイスラエル軍をブッシュが抑え込んだという新聞報道があった。イスラエル空軍がイランの核関連施設を空爆する場合、イラク空域を管理している米国の了解を得る必要があることと、イスラエル空軍機がイランを空爆するには、途中で米国の給油機の支援を受ける必要があると指摘されていた。

イスラエル軍が「これ以上待てない」として、イスラエル単独でイラン空爆に踏み切った場合、米国は「これを追認して、イラク上空通過を承認し、空中給油を行ってやるか」それとも「イスラエル軍を見捨てるか」の選択を迫られる。ケネディが亡命キューバ人の反革命軍を見捨てたように、オバマもイスラエルを見捨てるかどうかの選択を迫られる。

以上が、「バイデンが副大統領就任前に、オバマは大統領就任後6か月以内に、ケネディと同じ試練に立たされる」と語ったとされる背景ではなかろうか。オバマが自らの意思で戦争を選ぶのではなく、周囲の状況に背中を押され「新しい戦争に突入せざるをえない」ということではないか。


(朝鮮半島での戦争の可能性は想定されていないのか?)

昨年の夏前だったか、オバマがクリントン夫人と民主党予備選を戦っていた時期、オバマが不思議な発言をしていたことを思い出した。オバマは以下のような発言をしていた。

「アフガンやイラクに米軍の大半を駐留させているから、仮に、北東アジア(朝鮮半島ほか)で紛争が起こった場合、残留している米軍では対処できない。有事対応能力がない。」

当時、筆者は「オバマは不思議な事をいうものだなあ」と感じた。その旨ブログで論じた。当時、北朝鮮問題は6か国協議で話し合われており、朝鮮半島や台湾海峡で紛争が勃発する危険は感じられなかったから、オバマの意見が唐突なものに思えた。オバマが想定していた極東の有事というのがいかなるものか明確でない。北朝鮮や中国における軍内部の権力闘争が軍事衝突を惹起することを想定しているのか、それとも中国人民解放軍の台湾進攻や北朝鮮人民軍の韓国侵攻を想定していたのか腑に落ちないものが残った。

北朝鮮は韓国・李明博保守政権誕生後、たびたび「最後通牒」と称する宣伝を繰り返している。「吠える犬は咬みつかない」というから、北朝鮮がいくら危機を煽っても誰も反応しない。「また、いつもの手口か。世間の注目をひきたいのだろう」という反応が返ってくるだけだ。たが、国内の治安の乱れと、軍の規律を引き締めるために軍首脳部が「韓国を挑発して一戦交えてみるか」ということを考えても不思議ではない。国民や軍人の不満を外敵に向ける効果がある。

また、金正日首領の後継を巡る労働党幹部と軍官僚の意見対立が引き金になって、内乱が勃発する可能性はある。米韓連合軍は、「北朝鮮有事」を想定した合同軍事演習を何度も実施している。

(中国で戦争又は内乱が発生する可能性はないか?)

一昨年だったか、北京・南京軍区らの青年将校らしき集団が軍上層部に「台湾進攻作戦を即時断行せよ」との意見を認めた連名による血判書を提出する事件があった。
長年、共産党官僚は「軍が政治に関与しないよう台湾進攻を煽り過ぎた」きらいがある。そこで、青年将校らが「いつまで待たせるのか?」と激怒した訳である。

昨年の北京五輪開会式の約1か月前から、軍は北京・南京・済南・瀋陽の4大軍区の軍を十数万人動員して首都警護を行った。事実上、戒厳令下のオリンピックであった。軍にとっては「クーデターの予行演習」であったのかもしれぬ。

世界大恐慌による輸出産業の壊滅、住宅バブル崩壊による建設業関連の破産続出、国有企業に貸し付けた資金の不良債権化による金融機関の資金繰りの悪化が、ダブル・トリプルに重なった。公表された失業者だけでも2500万人ということであるから実態は、その数倍はあると考えてよい。中国共産党の体質は「プラスは何倍にも大きく」「マイナスはなるべく少なく粉飾する」ことであるのは、広く知られるようになった。彼らが「プラス10%の経済成長」というときは、経済成長ゼロと考えても大筋において誤りではない。

という訳で、中国共産党を打倒せよという声が、天と地と人に充満している。そこで国民の怒りを外に向けて大爆発をさける手口は、昔から常用されてきた人民管理のイロハだ。という訳で、中国共産党指導部が、台湾海峡、尖閣諸島、南沙諸島などで紛争を作り出すことは大いにあり得る。国内対策用の対外戦争である。

(まとめ)

米国外交の弱点は、国家の意思が統一されず、各勢力が己の利益を求めてバラバラに動くことである。互いに足を引っ張り合うことで国家の力が分散し相殺される。

キッシンジャーやブレジンスキーに代表されるユダヤ系戦略思想家の問題点は、どのような世界を築くかという国家理念が欠如していること、自国の都合と、相手国との変動する力動関係で国家関係を処理するという普遍主義の欠如並びに権謀術数に徹することができず、時々「怒りと偏愛に淫する」など、覇権国家としての条件と資質を欠いていると指摘しておくべきだろう。

米国外交は理念において独仏に遠く及ばず、普遍主義においてロシアと対抗できず、権謀術数において中国の足元にも近づけないお粗末なものである。金融崩壊後の現在、米国の特徴は、過去の栄光にすがる尊大な自己意識と軍事力だけである。

オバマやブレジンスキーが中国に対して「これから米国と中国(G2)で世界を管理しましょう」という甘い言葉で囁きかけるのも、ひとえに「中国が保有する外貨準備高約2兆ドルから少しでも貢がせたい」という魂胆なのだ。遊び人のヤクザが女に貢がせる時も、米国程度の甘い言葉と若干の策は弄する。「中国人はおだてに弱い。中国人はおだてるとナンボでも金を出す」と足元を見られているだけの話だ。

エマニュエル・トッド風にいえば、「米国は世界に寄生することでしか生きられない。世界は米国から寄生されないよう自立した道を選び始めた」ということである。小手先の外交戦略で覆せるほど問題は軽くない。米国は不治の病に罹患している。一度「死と再生」の過程を経るべきだろう。そうすれば、世界はまた米国を温かく迎え入れてくれる。






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