週刊争論

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[189] 憲法と「ねじれ国会」

投稿者
一橋大学法学研究科 只野雅人教授
投稿日
02/26 19:01

 一昨年の参議院選挙以来、「ねじれ国会」という言葉がすっかり定着した感がある。「ねじれ」という言葉には、どこか尋常でないといったニュアンスが感じられる。では、「ねじれ」ていない国会、つまりは、同じ政党が衆参両院の多数を占める国会が、憲法の予定する本来の国会の姿なのだろうか。二院制をとっている国であれば、両院の間の「ねじれ」は、当然織り込み済みではないのか。なぜ「ねじれ」がことさらに問題になるのだろうか。2つの要因が、日本の国会の「ねじれ」を深刻なものにしている。

 ひとつは、参議院が諸外国に比べてかなり強い第二院だ、ということである。憲法によれば、衆議院が可決した法案を参議院が否決した場合、衆議院が再度法案を議決するためには、3分の2以上の特別多数が必要である。ひとつの政党だけで3分の2の議席を占めるのは容易ではない。

いまひとつは、二大政党制と強い参議院との不整合である。政権交代可能なシステムの実現をかかげ、90年代初頭に衆議院に小選挙区中心の選挙制度が導入された。モデルとなったのは、二大政党間の政権交代が機能してきたイギリスである。しかしイギリスには、強い第二院は存在しない。イギリスの第二院・貴族院は、選挙されない議院である。それゆえ、対立があれば下院の意思が優越する。しかし日本のように、民主的に選挙された、それゆえ同等の権限をもつ二つの議院が正面から対立すると、その調整はやっかいである。しかも、政権を争う二大政党がそれぞれの議院で多数を占め、にらみ合うとなると、両院の調整は極めて困難になる。

 いずれもが制度に関わる大きな問題だが、しかし、より本質的な問題がもうひとつある。それは、国会内部で、相違から合意をつくっていくという意識の欠如である。55年体制のもとでは、自民党内で合意をつくれば、国会での可決は既定であった。国会内部で相違が顕在化したり、合意に向けた調整が行われたりすることは、希であった。しかしそれは、議会本来の姿とはいえない。対立からいかに合意を形成するかが、議会運営においては最も重要な課題のはずである。またそうした合意形成の過程にこそ、議会制の存在意義がある。たとえばそのための場として、憲法は両院協議会を予定している。

 憲法改正による参議院の権限縮小を求める声もある。しかしそれは、あまりにも短絡的な主張である。3分の2という再議決の高いハードルは、両院の相違を明らかにした上で、国会という国民に開かれた場で合意点の模索をうながすためのものではないか。いま必要なのは、大連立のような安易な数合わせでも、また選挙を意識した硬直的な国会運営でもない。合意の余地のある事柄とそうでない事柄とを切り分け、前者については合意に向けた議論を続ける一方、後者については国会の審議を通じて争点として国民の前に提示することが重要ではないか。衆議院選挙で多数を占めた政党が物事を決めるという単純な多数決の論理とは異なった、国会運営が求められているといえよう。

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[190] Re:憲法と「ねじれ国会」

投稿者
磯永征司 E-MAIL
投稿日
02/26 22:43

 ちょっと問題提起とは外れるかもしれませんが、わたしは「党議拘束」なるものが理解できない。ひょっとしたら、憲法違反ではなかろうか。
 なぜなら、議員は一人ひとりが独立した有権者の代理人である(代議士)。そして、党は一人ではどうしようもないので、主張や、人脈や、勢力関係で纏まってやろうと言う機構・組織である。もちろん、そうであるからこそ、事実上の縛りは信義則、お互いの協力関係の持続制覇当然要求される。
 しかし、原則は一人ひとりの代議士であろう。アメリカのように、個別案件では、これは違うと言う事はあるはずであり、党議拘束はすべきでないし、違憲ではないか。それは、信義則、信頼、助け合いのレベルの問題ではなかろうか。
 どうなのでしょう。

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[193] Re:憲法と「ねじれ国会」

投稿者
higeman
投稿日
02/26 23:46

単純な質問を失礼させて頂きます。

では、この状況を変えるためには、先生はどのようになっていくといいなぁとお考えでしょうか?

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[202] 両院協議会の構成を変えよ

投稿者
WEB多事争論編集委員 吉岡 弘行
投稿日
02/27 14:22

higemanさんへ
  只野教授の小論の中にヒントがあると思います。
 只野氏はまず二つの問題を指摘し、より本質的な問題として「両院協議会」での
 合意形成といいうことを述べています。
  これまで通過儀礼にすぎなかった「両院協議会」の機能・権限のアップを図る ことが解決の一つの方法でしょう。
 第2次補正予算をめぐって先月27日に与野党の間で2日間にわたって協議が続け られたのですが「意見の一致をみるに至らず、成案をうることができなかった」 として「衆院の議決が国会の議決になりました」。
  これを受けて只野氏は「現在のように委員が賛成会派の代表同士では合意でき ないので、衆参の会派の構成を反映させるなど委員の選び方を変えたほうがい  い」(1月28日付 朝日新聞)と述べています。
  それに加えて、私は「両院協議会」の合意形成のルールを真剣に整備すべき時 期に来ていると思います。おととし11月に「新しい日本をつくる国民会議」  (21世紀臨調)が「委員の選任方法や衆院再議決との関係を含め、合意案作りに向 けて使える制度によみがえらせる」と改革をうったえましたが、これまでルール 整備の議論は本格化してきませんでした。
  この週刊争論でも紹介した『大平正芳』(中央公論新書)では、大平氏が幹事 長時代に対立相手の共産党書記局長の不破哲三が「大平幹事長は、なかなか信頼 できる協議相手でした。むずかしい問題でも、議論を尽くして結論がでると、そ の場できちっと回答を出す。そしていったん回答を出したら、確実に実行にうつ しました」と証言しています。
 著者の福永文夫・獨協大学教授は「大平はものごとを考えるとき、互いに相反す る二つの中心を対峙させ、両者が作り出す調和を見つけ出す態度が終生一貫して みられる」として、それを『楕円の哲学』と表現しています。
  翻って麻生政権はどうでしょう?首相はスピード感が大事と主張しながら、  「ねじれ国会」になってかなり時間がたつのに、野党に政策協議を求めて歩み寄 ったりすることは一切放棄しています。不利益をこうむるのは我々国民です。
  

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[205] Re:両院協議会の構成を変えよ

投稿者
りんりん
投稿日
02/27 17:05

選挙がちかづいてるから長期的なビジョンに立った議論ができないのでは?
もう給付金でもなんでもいいから具体的な施策を実施してほしいという投げやりな考えはわたしだけでしょうか。 

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[207] Re[2]:両院協議会の構成を変えよ

投稿者
αβ
投稿日
02/27 22:24

景気対策は必要だと思います。只、方向性を定めずにむやみやたらと予算をばら撒いて状況が改善されるのでしょうか?そもそも今回の景気後退を招いた要因は何なのか、政治家はそこをしっかりと把握した上で的確な処方箋を投与することが重要なのではないでしょうか。もう「失われた十年」だけは繰り返して欲しくないものです。

只野先生の御指摘の通り、国会が「ねじれ」ること自体は決して不健全なことではないと思います。

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[209] Re:両院協議会の構成を変えよ

投稿者
higeman
投稿日
02/28 18:06

レスありがとうございます。

なるほど、少しほぐれて見えてきました。
「両院協議会」の在り様が今までよく理解していなかったので、この事で少し理解ができました。

「両院協議会」をはじめ多くの死に体になっているもの、は一切見直ししてほしいですね。

*難しい言葉でフェイクした「無駄」を、わかりやすく伝えることはニュースではなかなかできませんね。このサイトではそういったことを掘り下げていく場としても有益ですね。
「理解」をすればさらに「論」に厚みを持たせることができる。
『ルール 整備の議論は本格化してきませんでした。』

-報道で見る限り、果たして「ルール整備の議論」を本気でまとめる気はいままであったのでしょうか?政治家のそのような建前言動を見てると、「議論をする」ということ自体が本筋でパフォーマンスになっている気がしてなりません。

議論の着地点がなかなか見えてこない。という事は、その着地点に到達しない問題点はなんなのでしょうか?
着地する気がないのか、着地点にたどる道筋になにか弊害があるのか?ならば、その弊害はなんなのか?
その辺、いかがなんでしょう?

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[285] Re:両院協議会の構成を変えよ

投稿者
ton_paris E-MAIL
投稿日
03/05 13:35

大平総理の時代と比べると明らかに言えるのは人間力の劣化です。合意形成という難しい作業は、今国民に取ってどのような形が最も大切かを模索する大切な作業だと思います。多様な価値観の中で最も多くの人々の手mになる方向は何か、これはお互いの意見を主張しているだけでは出でこないと思います。システムは人間を生かすためにあるのであって、システムですべてがうまくいくことは絶対にあり得ないと思います。システムを生かす人間力が必要ですね。あーそれにしても全くそのことに気がつかない人たちが多すぎる。これも国民全体の人間力が落ちてきていることの現れなのかもしれません。私たち自身も日頃の生活の中で合意形成能力とは何かを考える必要があるのかもしれませんね。

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[287] Re[2]:両院協議会の構成を変えよ

投稿者
αβ
投稿日
03/05 15:02

筑紫さんが敬愛した政治学者、丸山真男の言葉を思い出します。民主主義は、それがただ存在するだけでは決して上手く機能しないという内容だったと記憶していますが、理想的なレベルでの合意形成を図るには、激しい意見の衝突は必要不可欠だと思うのです。個々が顔を合わせながら物を言い合うというのが一番望ましいとは思いますが・・・。それ位のダイナミズムがなければ、世の中に影響を及ぼすことなど到底無理でしょうね。

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[206] Re:憲法と「ねじれ国会」

投稿者
こやぶ
投稿日
02/27 17:20

先生、任期が4年というのは長すぎませんか? 国民としては、ここをもう少し何とかして欲しいのですが。

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