20090411
■[雑文]見参!ズッコケ馬鹿DQN3人組!
タイトルは煽りでも釣りでもありません。
連日のシフトで疲労困憊になったところに、ついに俺だけではシフトを埋められなくなり、通常は売場管理だけでシフトには入らないうちの奥様まで呼び出し、二人とも非常に気分は鬱っぽく、体はだるく、なんというか、競合店爆発しろさもなくば500万円くれ、というような気分の、ある夜のことだった。俺に限っては「おじちゃんを癒してあげる」とやさしく顔面騎乗してくれる幼女も欲しかったが、そんなことを公言した日には「このド変態が」という、ある種の人々にとっては嬉しいかもしれない罵声を浴びれたりするので、内緒にしてるそんな夜である。
客足がぱったりと途絶えとき、かわいそうなくらいのDQNスタイルで全身を武装した、もはや頭弱そうなレベルの高校生くらいの男子が3人で入店。
レジを見ていた俺は警戒態勢に入った。
基本的に、コンビニにとってDQNは敵である。たとえいくら買ってくれようとも。いや、ひゃくまんえんくらい買ってくれるなら話は別だけど。彼らは往々にして店頭や駐車場に無意味に長時間たまる。このことにより、女性客からのイメージが圧倒的に悪くなる。それはもう、数字に表れるレベルの話だ。だから俺は通常、この手のお客様がご来店なさりくさりやがった場合、難癖をつけて追い出すことにしているが、その行動はDQNよりよほどひどいのではないかというツッコミはやめてください。ちなみに、難癖の具体的な内容としては「雑誌の10分以上のしゃがみ読み」「店内での飲食」「店頭で食べたあとゴミを捨てない、ないし食べ終わったあと10分以上溜まる」「駐車場でのエンジンの空ふかし」などである。難癖というよりは、これだけやれば「マナーを守れていない」といわれてもしかたないレベルだよね、とミサカはミサカはつっこまれてもいないだれかに対して言い訳してみたり。ちなみに「ミサカはミサカは」がわかんない人は禁書目録読め。インデックスと小萌先生かわいくてちょう勃起します。
さて、DQN3人組である。一人が抜きん出て長身であり、髪の毛の色は鮮やかな金色で根元だけ黒い髪であり、髪型は寝癖のついただめなプロレスラーのようなことになっており、服装はしまむらでいちばん悪そうなのをチョイスしたような感じだった。一人は小柄で、髪型も地味で、服装もしまむらでごく標準的なものを選んだような感じ。もう一人は印象が薄すぎてあまり覚えてない。たぶんしまむらっぽかった。あるいは苗字が島村だったかもしれない。勢いだけでものを言った。すみません。
俺が警戒する一方で、うちの奥さまは機嫌が悪くなる。機嫌を悪くしたときのうちの奥さまにはさまざまな武勇伝があり、事務所でバイトに説教を始めて店の業務を中断させた以前の会社の社長に、廃棄の弁当をカゴごとぶん投げて「仕事の邪魔すんじゃねえ!」と怒鳴ったり、床に座りこんで雑誌を読み始めたDQNにカップ麺が満載になったカゴをボーリングの要領ですっ飛ばしてブチ当て「失礼いたしましたー。まさか床に人が座っているとは思わなかったものですからー」と言ったりだ。
ちなみに俺にも武勇伝がある。さんざん店内で溜まったあげくに便所を借りた頭わるそーな女子中学生に対し激怒していた俺は、女子中学生が入っている便所の前で床に這いつくばった。別に音を聞こうとか思ってたわけではない。なんでもいいからいやがらせをしたかったのだ。扉を引いて開けた瞬間、女子中学生が目撃したのは床に這いつくばって苦しげに呼吸している38歳のおっさん。なぜ苦しげに呼吸しているのかといえば、それは俺がユニクロのジーンズを買うにあたって、自分より上のサイズはあと2つしかないというピザだからであり、女子中学生の排泄音を聞いて下半身がせつなげに伝説の魔剣エクスカリバーと化して大地に根を張ったからではない。
ともあれ、俺は変態的に這いつくばっている。
店内に女子中学生の悲鳴が響いた。そこで俺はこう言った。「あれ、結婚指輪が見当たらない……」 その女子中学生が二度と店に来なくなったことは言うまでもない。ちなみにこの話をうちの奥さまに自慢気にしたところ「あんた、地域の評判とか考えたことあるのか……?」と、にこやかにそのへんにあったモップで殴られたのも、いまとなってはいい思い出だが、数ヶ月前の話です。
さて、ズッコケDQNである。最初から絶好調だ。
「おいどうすんだよ、俺金ねえよ。電車賃ねえよ」
「じゃあおにぎり買えよおまえ。俺ミルクティー買うからよ」
「んだよおめー、ミルクティーとか調子くれてんじゃねえよ。おめえだって金ねえだろ。どうすんだよ。3駅歩くのかよ」
これは人間の会話か。おまえたちに相互にコミュニケーションの意志はあるのか。
「悪いけど俺、手巻寿司買っちゃうよ。シュークリームとかいけんべ」
「んだよおまえ、それ許されると思ってんの? 金貸せよ。電車賃ねえんだよ」
「俺もねえよ」
「みんなねえのかよ」
なんじゃこりゃ。
これらの会話がすべて、レジにいる俺の目の前で交わされている。俺の目標は彼らを追い出すことから変化した。聞き届けなければならない。駅から徒歩50分、バスを使わなければまともに駅ですら到達できないこの場所で、彼らは電車賃すら持たずコンビニに入ってきてなにかを買う気だ。おまえたちはバカか。しかし彼らの議論の帰結を聞き届けなければならぬ。彼らはどこへ行こうとしているのか。少なくとも家には着こうとしてないように思えるんだけど……。
彼らは、デザートの棚の前に移動した。レジからやや離れた場所で、人目憚らぬ大声の会話が交わされる。
「っわやっべ。抹茶きてんべ。俺抹茶やべえよ。この店やるよ」
「なんかこの店、近所のコンビニより品揃え豊富じゃね? いい店なんじゃね?」
わーい、ありがとう。ほめられたー。
貴様になにがわかるッ!!
結局、長身のリーダー格の男は、手巻き寿司と抹茶シュークリームを本当に買った。
レジ前でうろうろし始める彼らを制する方法はないか。はっきりいってほかの客が来たときに邪魔なのだ。そこで俺は、揚げ物をすすめた。ただいま、こちらの商品が30円引きになってますよ。いかがですか、と。まあいつものセールストークだ。
「ちょっとやべえよ。30円も引いちゃうよ? 引いちゃっていいわけ?」
「やばいじゃん。お兄さん損しちゃうじゃん。オーナーさん? オーナーさん損すんべ定価でいいよこれ」
「おまえ買えよ。30円やべえよ」
い ら い ら す る 。
おまえたちの国がやばいのはわかった。強調する必要はどこにもない。おまえたちの存在そのものがなによりもやばい。見ればわかる。早く買え。金置いてとっとと帰れ。あとバカに心配される商売やってねえよ。おまえうちの店なめんなうちの店まじやべえよ。調子くれてんじゃねえぞコラ。
結局すったもんだしたあげく、彼らは俺のおすすめどおりに揚げ物を買った。
「おまえいくら残ってる?」
「75円」
「68円」
「俺97円。おまえらちょう貧乏じゃん」
「電車賃ないじゃん」
「どうすんだよおい」
ああもう、どこからつっこめばいいんだこれは。だめだ。「バカ見参!!」と墨ででっかく書いた紙でも額に貼り付けてやりたい。おまえらいいからバカトリオとか結成して東京湾で遠泳してこい。大丈夫。きっとフロリダまで行ける。バカに不可能ねえよ。電車賃もいらねえしいいことづくめじゃん。
その時点でも「あとでテキストに起こすときに、これは書きかたに苦労するな」と思ってたんだけど、いま書いててやっぱり厳しい。あまりに素晴らしい素材は、かえってツッコミに苦労する。学習した。
そして彼らは出口にほうに向かった。よかった。ようやく帰る。うちの奥さまも不機嫌にならずに済んだ。よかった。おまえたちは一晩中歩いてどこかの小説のように青春でも謳歌してこい。
と、思ったのだが。
出口に向かったはずの彼らは、なぜか方向を転換し、シャンプーや石鹸、つまりトイレタリー用品のある棚の前に溜まった。
まずい。
そこには。
地雷が……。
トイレタリーの棚の反対側では、うちの奥さまが、秋冬から春夏への商品の以降のため、棚替えを行っていた。
なぜそこへ行く……。
棚の前で彼らは、大声で話し、ときに下品な笑い声をあげる。
まずいんだって。そこはまずい。
ほどなくして、店内に、棚を床に叩きつける轟音が響いた。俺は慌てて店内を見回した。ほかに客はいない。不幸中の幸いだ。頼むからバカたち空気読んで。そこから消えて。ヘタすっと君らにも危害行くから。ね? 悪いこと言わないから……。
「おい、MK2!!」(実際は苗字で呼んでる。うちは夫婦別姓でやっているので)
怒鳴り声が響いた。
ああ……あとのフォローがめんどくせえよおい……。
俺はうんざりした気分で、うちの奥さまのもとへと急いだ。
するとそこには、床にしゃがみこんで、笑いをこらえて歪んだ顔をしている奥さまがいた。え、なに、怒ってるんじゃないんですか、あなたは。なぜそんな苦しそうな顔をしているのですか?
奥さまは無言で、棚の反対側を指さした。さっきの怒声で一瞬静まった彼らだが、いまはふつうに会話している。客は来ない。俺は言われるままに、彼らの会話に耳をそばだてた。
……どうやら「お客様用歯ブラシ」を話題にしているらしい。ご存じない方のために説明すると、お客様用歯ブラシとは、旅館やホテルなどによく置いてある使い捨ての歯ブラシだ。うちの場合、3本セットの商品を販売している。当然ながら、耐久性などないに等しい。
「お、これなんかちょうやばくねえ? めっちゃ安いじゃん。3本でこの値段とかありえなくね?」
「おま、すげえよこれ。この店ちょう安いじゃん」
「うっわ歯磨き粉までついてるよ。なんかすげえお得じゃね」
俺の頭に疑問が渦巻く。なぜこのタイミングで歯ブラシに注目しなければならない? おまえたちはこれから家に帰るんじゃないのか? 歯ブラシどうでもよくね? だいたい歯磨き粉ついてるっていっても、それ2回くらい使ったらなくなるよ? あと使い捨てだってわかってる?
なるほど。うちの奥さまが笑いをかみ殺している理由がわかった。おそらく彼らの現在の状況、つまり電車賃すらもない、歩いて帰らなければならないという状況をわかったうえで、そのうえで歯ブラシに注目するという超展開に不意打ちを食らったのだろう。
しかし、本番はこれからだった。
事態はさらに斜め上に展開する。
「おまえ歯ブラシどうよ」
「どうって、あるに決まってんじゃん」
「でもこれ、3本セットじゃん。みんなで金出して買えばちょうお得じゃね?」
「おまえ頭いいじゃん」
「歯ブラシ新しいの重要だべ。みんなで歯ブラシ替えようぜ!」
みんなで歯ブラシ替えようぜ。
俺の人生のなかで、こんな集団行動を目撃できる機会が、はたしてあと何度あるだろう。なぜ歯ブラシ。なぜこんなときに。いまは歯ブラシのときじゃない。なぜわからない。長時間歩くなかでのどが渇いたらどうする。途中のコンビニでチロルチョコの1個も買いたくなるかもしれないじゃないか。いま君たちのすることは歯ブラシを買うことじゃないだろう? 深夜の歩道で「なぜ俺ら、こんなもん買ったんだろう……」って思うの目に見えてるじゃないか。
「ばっかおまえちげーよ。わかってねえよ」
うん。そうだろ。だれかは止めなきゃ。そうだよ。
「歯磨き粉どうすんだよ! 分けらんねーだろ!!」
バカーーーーーーーーッッッッ!!! バカッ。バカッ。バカーーーーッッ!! そうじゃないだろ! いいかげんにしろよ! いいかげんにしないと俺、おまえらに親切にするぞ? 君らのやろうとしてることはまちがいだって、心の底から親切に忠告すんぞコラ!
「おまえ、発案者?の俺がもらうに決まってんだろ」
「なに調子くれてんのおまえ。3人で分けるに決まってんだろ」
「いっそ捨てればいんじゃね?」
「もったいねえよ」
「なんだよおまえ、やんの?」
ああ……仲間割れ始めた……地獄絵図だ……。
うちの奥さまはすでに窒息状態だ。やめろ君ら。奥さまが喘息出したらどうしてくれるんだ。会話の成り行きから目が離せなくて、こんな状況でも棚を替えてるふりをしてるじゃないか。
やがて話はまとまった。だれかのうちに泊まったときに、歯ブラシを持参して歯磨き粉を山分けするということで丸くおさまったらしい。
「一人50円でいんじゃね?」
俺はそんな相談を耳にしながらレジへ向かう。これで、今度こそ本当に帰るだろう。いいネタをもらった。ありがとう。でもあれ、うちの奥さま、本気で喘息出てると思う……。
長身のヤツが代表でレジに持ってきた。俺は元気に言った。
「一点で、179円のお買い上げでございます」
レジに出されたのは、3枚の50円玉。
「あの、すいません、あと29円ございますか」
「は?」
「ですからあの、お金がですね、足りないんですが……」
「ンだよおい……」
ああ……また仲間割れを始めた……。てゆうか、せめて50×3くらいは暗算できてほしかったよ、ほんと……。なんか、笑うの通り越して無常観っていうか、こう……。
結局、俺があいだに割って入って、一人いくら出せばいいかの指示をしました。電卓も出したよ。29割る3がいくらかを、客観的に証明するためにね……。
うちの奥さまはめでたく喘息を出して、事務所で吸入するはめに。
そして、苦しそうな息の下からひとこと、言ったのでした。
「すごかった……珍獣天国……。新しい日本語作らないと……あれ、バカとかじゃ足りない……。くるくるぱーでもまだ無理」
「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴー、とか」
「ああうん、それくらい……。悪い、あとレジ任せた」
数日前の、22時のことでした。