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NIKKEI NET

社説1 不正も将来も見えない「かんぽ」問題(4/12)

 鳩山邦夫総務相は日本郵政に対し、宿泊施設「かんぽの宿」の売却問題で業務改善命令を出した。のちに白紙撤回したオリックス不動産への一括売却手続きが「不公平で不透明だった」などと理由付けている。今年度事業計画の認可では、赤字続きのかんぽの宿事業を黒字転換する道筋を示すよう条件を付けた。

 オリックスの宮内義彦会長が政府の規制改革・民間開放推進会議議長だったのを引き合いに「売却は出来レース」と疑惑を声高に叫んだ総務相だが、根拠はあいまいなままだ。改善命令は日本郵政が提出した大量の資料を分析した結果だ。真相解明には一区切りがついたのに、オリックスを意図的に落札させる不正の証拠はこれまで出てきていない。

 政治が民営化企業の経営判断に横やりを入れ、気に入らない入札結果に待ったをかける。こんなことが繰り返されては内外の企業は民営化企業と安心して取引できない。公職歴が入札参加のネックになるなら、企業のトップは公職を敬遠するだろう。総務相の介入は、そうした点であしき前例になりかねない。

 日本郵政にも落ち度はある。「手続きは公正だった」と言いながら、事実関係の説明を尽くさぬまま売却案を撤回したため、問題が一段と不透明になった。改善命令で指摘された入札参加者への説明不足や企業統治の不徹底といった点も直す必要があろう。

 一方、かんぽの宿事業の将来展望も開けていない。総務相は日本郵政が作った赤字前提の事業計画を「覇気を感じられない」と突っぱね、黒字に転換させる計画を練り直して6月末までに出すよう要求した。

 早期黒字化に越したことはないが、厳しい不況の中で一気に収益を改善できるかは疑問だ。宿泊料金の引き上げは利用者離れにつながる。かんぽの宿が一方的に集客力を高めれば、競合する地元旅館や宿泊施設にしわ寄せが来る構図にもなる。

 施設を個別に売却する場合、買い手が現れないとその地区の雇用維持が困難になる。実際の売却収入がオリックスへの売却で見込めた108億円に、売却の遅れによる赤字の拡大分を加えた金額を上回らないと、白紙撤回した意味はなくなる。

 かんぽの宿は簡易保険加入者の資金で建てた公共財産だが、立地や施設を巡っては、天下り先の確保を意識した郵政官僚や地元への利益誘導を狙う政治家の思惑も働いた。総務相が「建てた者の責任」に何も言及せず、採算改善だけを日本郵政に押しつけるのはバランスを欠く。

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