攻守逆転の気配である。毎日新聞が実施した世論調査で、民主党の小沢一郎代表が衆院選までに党首を辞任すべきだと答えた人は72%に達した。対照的に、極端に低迷していた麻生内閣の支持率は8ポイント増の24%と復調傾向をみせた。
政治資金規正法違反で公設秘書が起訴された小沢氏の続投を了承した民主党だが、依然として世論の風当たりが厳しい現実を突きつけた数字だ。このままで政権交代の展望が開けるか、疑問を抱かざるを得ない。
しかし、麻生太郎首相に吹き始めた追い風も政権への本格評価とは言い難い。与野党が世論支持の受け皿となりきれない状況を浮き彫りにした調査結果である。
衆院選を半年以内に控えた民主党には重い結果だ。設問がやや異なるとはいえ小沢氏の辞任が必要と考える人は、秘書逮捕直後の57%に比べてむしろ増えた。検察捜査のあり方など小沢氏秘書の立件をめぐり議論があることは事実だ。さりとて、西松建設のダミー団体からの巨額献金に関する小沢氏の説明にも国民の多くは納得していない。
今回の調査では、次期衆院選で自民党よりも民主党に勝ってほしいと答えた人がなお上回っている。小沢氏は「必ず政権を取れると現時点で認識している」と言うが、むしろ自身の進退問題がそのアキレスけんとなりつつあるのが実態ではないか。
党の自浄努力にしても、小沢氏が提起した企業・団体献金の全面禁止で合意したのは前進だが、実施時期をめぐる調整は難航している。それ以上に深刻なのは、国会審議を通じ衆院解散に追い込む迫力が衰え、攻勢が影を潜めたことだ。民主党は最近、与党からの国会での党首討論の打診を拒否した。これでは「どちらが首相にふさわしいか」で麻生首相への支持が小沢氏を上回り、逆転したこともやむを得まい。
片や、一時は11%にまで沈んだ麻生内閣支持率は何とか末期的水準から浮上した。定額給付金を評価する人も2月調査より増え、北朝鮮のミサイル発射への対応も国民は評価している。民主党の混乱で国会運営も与党ペースとなり、余裕を取り戻した首相の最近の表情が状況の変化を物語る。
ただ、依然として内閣不支持が半数以上を占めており、政権への信頼回復が軌道に乗ったとは言えない。衆院選で国民の信任を得ないままの政権運営には限界がある。
首相が打ち出した総額15兆円もの追加経済対策に対し、民主党は修正案を示し対抗する構えだ。自民党内にも5月解散を促す声が出てきた。やはり速やかに衆院を解散し、どちらの案が的を射たものか、政権公約とともに国民に聞くべきである。
毎日新聞 2009年4月12日 東京朝刊