ドイツのボンで開かれていた気候変動枠組み条約の特別作業部会は、京都議定書に定めのない二〇一三年以降の温室効果ガスの国際的削減枠組みについて、議論に目立った進展がないまま閉幕した。
現在は先進国だけが負っている温室効果ガスの削減義務について発展途上国まで含めて拡大できるかがポスト京都の課題だが、先進国と途上国の対立を解く糸口は見えなかった。
年末の気候変動枠組み条約第十五回締約国会議(COP15)まであと八カ月余りだ。非公式会合を二回追加することが決まっている。議論を重ねて合意に結びつけねばならない。
今回の交渉は、京都議定書から離脱していた米国が復帰したことで期待が高まった。米国のスターン気候変動問題特使は「われわれは失われた時間を取り戻す」と演説してブッシュ政権との違いをアピールし、会場は大きな拍手に包まれた。
実際の交渉では、先進国の削減規模について太平洋などの島しょ国などが二〇年までに一九九〇年比45%以上削減という厳しい中期削減目標を求め、先進国側は防戦に追われた。
中国やインドを含む途上国が進める削減をめぐっては、各国がそれぞれ意見を述べあうにとどまった。本格交渉は次期枠組みの素案が示される六月の作業部会以降に持ち越しとなった。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、平均気温の上昇を二度程度に抑えるためには、先進国全体で中期目標を九〇年比25―40%削減する必要があると提言している。欧州連合(EU)は20―30%、オーストラリアは5―15%、米国は九〇年の水準まで削減する方針を公表しているが、これらを合計しても九〇年比4―14%減にすぎないとする環境保護団体の指摘が出た。先進国はさらに大胆な削減幅を示す必要がある。
日本は今回、途上国の削減義務を強調し、政府の「中期目標検討委員会」が示した4%増から25%削減までの六案を説明した。削減を目標とする会議に排出を増やす選択肢まで示す必要があったのか、日本の真剣度が問われよう。
米国は新しい提案をしなかったため、交渉を進める原動力とならなかった。しかし、「エネルギーと気候に関する主要経済国フォーラム」を主催し、ポスト京都の国際枠組みについても検討を急いでいると表明している。次の会合では日本も国際社会が納得できる中期目標を示す必要がある。
天皇、皇后両陛下が結婚から五十周年を迎えられた。今年は天皇即位二十年の節目の年でもある。多くの人がそれぞれの歩んできた人生を重ね合わせているのではないか。
結婚された一九五九年は、日本が敗戦からの復興を果たし、高度経済成長に向かう時期だった。初の民間からの皇太子妃に、国民は親しみを込めてニックネームで「ミッチー」と呼び、大きなブームになった。
宮中の慣習にとらわれず、一般家庭と同じように子どもを手元で育てた。新しい皇室の姿に新鮮さと親近感を覚えた人は多いだろう。
象徴天皇制の下で初めて即位した天皇陛下は、結婚五十周年に際しての記者会見で「象徴とはどうあるべきかということはいつも念頭を離れず、望ましい在り方を求めて今日に至っています」と述べた。
皇太子時代から、お二人で全国の障害者や高齢者らの施設訪問を重ねた。大きな災害が起きると、現地に赴き被災者たちを励ました。弱者に向ける温かいまなざしが感じられた。
先の大戦に対する思いも深く、沖縄や広島、長崎などを歴訪した。これらは象徴天皇として「国民とともに歩む皇室」を模索する行動といわれる。
特に印象深いのは、被災地の訪問である。避難所で床にひざをついて被災者の手を握って激励する姿が話題になった。当初は「陛下がひざまずくなんて」との批判もあったが、「国民とともに」という強い意思の表れといえよう。
皇位継承問題が検討課題となる中、お二人はともに七十代の中盤を迎えた。健康不安が取りざたされる。健やかに暮らしていただくために、宮内庁は公務の負担軽減に向け適切に対応してもらいたい。
(2009年4月11日掲載)