イラク戦争以後、現地の復興や治安が回復しだすとともに、日本国内で一時、暴落したイラクの通貨「ディナール」への投機熱が急速に高まっている。この通貨を扱う両替商は「経済復興で20万円が一挙に1億円以上になる」と宣伝。その一方で、今後の情勢によっては大幅なインフレなどの恐れもあるとして警戒を呼びかける識者も。今のところ財務省は静観しているが、リスクもはらむディナールの購入には自己責任が問われている。
「史上最安値レベルに暴落しているディナールを入手することで、投資額の300倍以上の利益を手にすることができます」
東京の両替商はこのような宣伝文句でディナール紙幣を販売している。この両替商によると、現在注文が相次いでおり、昨年7月に月商50万円だった取引が、今年3月には60倍の3000万円に膨れ上がった。40代の主婦が一度に100万円を購入したケースもあるという。
外国為替に詳しい関係者によると、ディナールは通常の外国為替市場では取引されていないため、一般の銀行などでは取り扱っておらず、両替商も全国に数業者あるだけだという。
ディナールは湾岸戦争(1991年)とイラク戦争(2003年)の影響で大暴落。米ドルとの交換レートは90年当時、1デシ=1・6ドルだったのが、現在は1250デシ=1ドルと2000分の1に落ち込んでいる。
東京の両替商では、サウジアラビアなどイラク周辺国の金融ブローカーを通じて現物を入手。二万五千デシ紙幣1枚を実勢レートでは2000円だが、「入手が困難なため」などとして8800円で現物販売している。25枚のパックを18万5000円で販売。95年当時のレートに回復すれば、将来的に540倍で1億円以上の期待収益が得られると宣伝している。実際に2001年当時のレートから現在は265%上昇しているという。
両替商の代表は「復興の進展を考えれば、価値が上がることがあっても下がることはない」と自信を持つ。
国際通貨基金(IMF)の調査によると、イラクの実質GDP(国内総生産)成長率は、昨年9・8%で今後5年間は約7%で推移すると推定。特に原油埋蔵量が世界3位を維持していることが大きいという。
また財務省外国為替室によると、平成10年の外為法改正前は両替業務を行う場合には大臣の認可が必要だったが、現在は誰でも自由に行うことができ、「ディナールの現物販売も違法ではない」としている。
こうした投機熱に対し、通貨価値の上昇に懐疑的な目を向ける業者もいる。ある外国為替業者は「経済が復興するにつれてインフレの可能性が十分にある。そうなると、イラク政府がデノミ(通貨単位の切り下げ)を発動させて、現紙幣の価値を減少させる可能性もある」と指摘する。
経済アナリストの森永卓郎さんは「湾岸戦争前のディナールは、公定レートが実勢の数倍に設定されていたこともあり、そもそも過去の公定レートに戻るなどということはない」と断言。さらに「国際為替市場で取引されていないディナールはドルや円に換金することも困難だ。こうした中で、投機をあおるのはどうか」と警鐘を鳴らしている。
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