きょうの社説 2009年4月11日

◎台湾に八田記念館 地方から国際化の具体例に
 台湾で動き出した八田與一技師(金沢出身)の記念館建設計画は、具体化すれば台湾、 日本で相互の関心が一段と高まり、日台の関係強化や次世代交流促進に資するなど、地方から国際化を推進する具体例となろう。八田技師ゆかりの金沢、石川県も協力できる余地は少なくない。実現へ向け、積極的に後押ししたい。

 台湾観光協会幹部が金沢市日台親善議連の訪問団に明らかにした記念館の計画は、約八 百坪の規模が想定され、総事業費は八億台湾ドル(約二十五億円)に及ぶ可能性もある本格的な顕彰施設である。

 台湾では戦後、日本人の顕彰は「植民地時代の正当化」とみなされ、銅像などが廃棄さ れることもあった。そうした苦難の時代を経て唯一残ったのが烏山頭(うさんとう)ダムほとりに建つ八田技師の銅像である。このダム建設で不毛の嘉南平原を穀倉地帯に変えた恩人として地元で敬愛されてきたが、顕彰の機運が現地でここまで盛り上がってきたのは、金沢市の「八田技師夫妻を慕い台湾と友好の会」が技師夫妻の墓前祭への参加を続けるなど、地元の人々と思いを共有する地道な活動があったからである。

 人的交流の蓄積が昨年の小松―台北定期便、さらには八田技師を描いたアニメ映画「パ ッテンライ!!」の制作・公開につながった。台湾でも烏山頭ダムの世界遺産登録をめざす運動が始まり、現地の石川県人会も協力している。記念館計画もそうした交流の延長線上にあり、実現すれば地方からの国際化推進が生んだ大きな果実となる。

 石川県からは修学旅行をはじめ、三月には県の中学生派遣団が台湾を初めて訪問するな ど青少年交流も活発化してきた。五月の墓前祭には八田技師の母校、花園小の児童らも訪れる。日台交流の担い手がこの地域から育ってくるのは心強い。

 台湾でも日本統治時代を知る日本語世代が確実に減るなかで、若い世代が八田技師を通 じて日台の歴史と向き合うことは、日本の芸能や漫画などへの関心以上に、日本への深い理解を促すだろう。記念館が早く実現し、台湾、日本で「親日」「親台」の人々を増やす拠点になることを望みたい。

◎株価9000円 大型景気対策が下支え
 日経平均株価が取引時間中としては三カ月ぶりに一時九〇〇〇円台を回復した。終値で の大台確保は成らなかったが、ちょうど一カ月前の三月十日は、バブル経済崩壊後の最安値に迫る七〇〇〇円割れ寸前だっただけに、潮目が変わった印象がある。

 欧米市場が上昇基調で、為替は円安という追い風もあるにせよ、やはり財政支出が約十 五兆円に及ぶ超大型の追加経済対策のメニューがそろい、経済危機対応の具体策が見えた意味は大きい。政府・与党が株価の急落に備えて、買い取り資金として五十兆円の政府保証枠を用意する方針を固めたことも投資家心理を明るくした。追加経済対策のための補正予算の早期成立に努力し、景気の「底打ち」につなげたい。

 証券業界では「国策に売りなし」といわれる。国の政策に沿った企業の株を売り向かっ てはいけないという相場の格言である。この一カ月、銀行等保有株式の買い取りなどの株価対策に加え、環境対応車購入の補助やテレビ、エアコン、冷蔵庫の省エネ家電購入に対する販売価格5%相当分の還元、贈与税減税を居住用住宅に限定し、非課税枠を五百万円上乗せするといった幅広い業種に恩恵が行き渡る景気対策が打ち出された。

 追加経済対策は、政府試算でGDPを2%押し上げる効果がある。何が何でも景気を下 支えするという政府の強い意思が市場に伝わった。外国人投資家が日本株の「売り」から「買い」に転じてきたのは、多岐にわたる骨太の対策を正当に評価してのことだろう。

 むろん、株価は一本調子では上がらない。上昇すれば利益を確定する売り注文も膨らむ だろうし、大きな下げに転じる局面もあるに違いない。何度も下値を試し、値固めをしてこそ相場は強くなる。

 政府が市場からの株買い取り額を五十兆円としたことに対し、「損失を出せば国民負担 になる」などとの批判もある。が、これは大暴落があった場合のセーフティネットであり、放置できぬ株式市場の異常事態を想定したものだ。いざというときの備えは、できるだけ手厚くしておいて損はない。