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政府・与党の追加経済対策は、ハイブリッド車など環境対応車(エコカー)への買い替え促進といった消費刺激策のほか、失業者への生活支援をはじめとした雇用対策、医療、介護、子育て支援など、幅広い施策を盛り込んだ。これらの対策が暮らしや景気にどのような効果をもたらすのか。国民にとって、使い勝手のいい施策なのかを点検した。【坂井隆之、高橋昌紀、柳原美砂子、鈴木直】
エコカーへの買い替え促進は、新車登録から13年以上経過した乗用車を廃車にし、国の「10年度燃費基準」を満たす新車に買い替えれば普通車で25万円、軽自動車で12万5000円を政府が補助する。廃車を伴わなくても、基準を15%上回る低燃費車を購入すれば、最大10万円を補助する。4月10日以降に登録した新車が対象。経済産業省によると、10年度基準は新車の約9割が達成、15%以上でも約4割が対象になるという。
すでに4月1日から、自動車取得税と自動車重量税を環境性能に応じて50~100%減免する「エコカー減税」が導入されている。この減税と新たな補助金を合わせると、購入負担は一段と軽減し、ハイブリッド車のトヨタ「プリウス」なら約40万円、ホンダの小型車「フィット」なら約30万円強の負担減となる計算だ。
省エネ家電の購入を促すために政府は、新たに「エコポイント」制度を創設し、テレビ、エアコン、冷蔵庫--の3品目の購入時に「ポイント」を付与する。制度の詳細は未定だが、次の省エネ商品の購入時に使用できるようになる見通しだ。
この3品目には、エネルギー消費効率水準を5段階で示す「省エネラベル」の表示が求められており、星四つ以上の省エネ効果の高い製品がポイントの対象。購入額の5%を付与するほか、古い製品を省エネ家電に買い替える際は、別途リサイクル料金分もポイントとして還元する。
また、地上デジタル(地デジ)対応薄型テレビの場合、11年7月の地デジ完全移行に向けて普及を図るため、購入額(上限30万円)の10%のポイントがつく。古いアナログテレビを廃棄した場合はさらにリサイクル料金分に相当するポイントが追加される。例えば、古いテレビを廃棄して40万円の地デジ対応薄型テレビを買うと、3万円とリサイクル料金分がポイントで還元される。
ポイントが、全国すべての店舗で使えるのかなど、制度の詳細については7月のボーナス商戦前までに決める。
◆職業訓練中の住宅補助も
「緊急人材育成・就職支援基金(仮称)」を7000億円で創設し、廃業した自営業者や失業が長期にわたり雇用保険の対象とならない人たちを総合的に支援する。期間は3年間。職業訓練だけでなく、訓練中の生活を支えるための住宅補助などの支援も行う。厚生労働省によると、昨年10月から今年6月までに19万2061人の非正規雇用労働者が失職する見込みで、2月の完全失業率も4・4%となるなど、雇用情勢が「想定以上のスピードと深さで悪化」(厚労省幹部)しているためだ。
◆介護職の待遇改善
介護拠点の整備による雇用創出や、介護職員定着のための待遇改善策を実施する。
拠点整備では、市町村交付金の増額や都道府県への補助金で、特別養護老人ホームや老人保健施設、ケアハウスなどの設置を促す。財源は3000億円。現在の計画で厚労省は09~11年度の3年間に20万人の職員増を見込んでいるが、今回の追加対策でさらに10万人の雇用が生まれると試算している。
介護報酬は今年度3%引き上げられたものの、現場には「待遇改善の効果は少ない」との不満がある。このため、賃金改善を確約した「処遇改善計画」を提出した事業所に交付金を支給することにした。事業規模は4000億円で、介護現場の職員1人あたり、月額1万5000円程度の賃上げ分に相当する。
08年度2次補正予算で実施した「子育て応援特別手当」は子どもの多い世帯の負担軽減が目的だったため、対象を「第2子以降」に限定していた。今回の補正では、子育て世帯全体を支援するため第1子にも支給する。支給額は08年度と同様、3~5歳児1人につき3万6000円。09年度のみ実施する考えだ。
◆子宮・乳がんの検診を無料化
医師不足など地域医療をテコ入れするため、新たに基金を創設し、都道府県が作成する「地域医療再生計画」に基づき、必要額を基金から支出する。高齢者医療では保険料の軽減措置を継続する。ただ、使途が明確でないうえ、基金が底をつけば、新たに始めた対策を継続できなくなる可能性もある。
また、子宮がんと乳がん検診を無料化する。子宮がんは20~40歳まで5歳刻みの各年齢に、乳がん検診は40~60歳まで5歳刻みの各年齢に達した人が対象。09年度に限って健康手帳を交付し、自己負担額を無料にする。
◆若年層への資産移転促進
親から子や孫に住宅購入資金を援助する場合、贈与税の非課税枠を現在の110万円から610万円に拡大する。今年1月にさかのぼって適用、10年末までの時限措置だ。
総務省の家計調査などによると、日本の個人金融資産(約1430兆円)の59%は60歳以上の高齢者層に集中しており、若年層への資産移転を促して消費を活性化させたいとしている。
麻生太郎首相は9日、追加経済対策に盛り込まれた居住用住宅に関する贈与税減税のための税制関連法案に関し、「出す以上はぜひ成立させてもらいたい」と述べ、成立に意欲を示した。首相官邸で記者団の質問に語った。
ただ、提出時期については明言せず、法案成立までの間に住宅の買い控えが起こる可能性については「ある程度はあるだろうが、(今年1月まで)遡及(そきゅう)することを決めれば極端に大きな影響が出る感じはない」とした。【影山哲也】
毎日新聞 2009年4月10日 東京朝刊