人気お笑いコンビの一人が肺結核のため入院したことで、結核への関心が高まっている。結核は依然、わが国では最大級の感染症であり「過去の病気」ではないことを忘れないようにすべきだ。
コンビの一人は東京都内の病院で精密検査の結果、結核と診断され、入院した。入院期間は二カ月という。もう一人は結核菌に感染していないことが確認された。
結核はかつて「国民病」といわれるほど多数の患者が発生し、不治の病として恐れられた。戦後、栄養状態や公衆衛生の改善、抗結核薬の普及など国をあげての取り組みで激減し、国民の耳目を集めなくなった。
ところが、人口十万人当たりで一年間に新たに結核と診断される人数(罹患(りかん)率)をみると、わが国は決して誇れる状態ではない。
二〇〇七年の罹患率は一九・八で、米国やカナダのほぼ四・五倍となり、先進国で最も高いのだ。
女性の平均寿命は世界一、男性は二位、乳児死亡率は世界最低、妊産婦死亡率もそれに近いほど医療事情に恵まれた中で、結核だけはなかなか減らすことができず、世界の中ではいまだに「中蔓延(まんえん)国」に位置付けられている。
〇七年で二万五千人余りが新たに患者として登録され、二千二百人近くが亡くなっている。
結核は一度感染すると三十−四十年後でも発病することがある。新規患者の半数近い七十代以上の高齢者は、結核が蔓延していた若い時期に感染し、免疫力の衰えとともに発病したとみられる。
注意したいのは、五十代以下の働き盛りの世代は、発病しても結核とは気付かず受診が遅れやすいうえに、交際範囲が広いために周囲に感染させやすいことだ。
結核菌は空気感染するため、人口密集場所や密閉されたビル内などでは感染が広がりやすい。お笑いコンビが出演したライブ会場などに居合わせたファンに感染の恐れがあるとして東京都などが注意を呼び掛けたのはこのためだ。
長野県に対し大阪府の罹患率は三倍、東京都は二・五倍を超えるなど感染の地域差は大きい。大都市では若い外国人や非正規労働者、ホームレスなどを中心に結核が増えているのが特徴だ。
結核に対し過度の恐れは必要ないが、油断は禁物だ。早期に発見し、抗結核薬をきちんと服用すれば治癒する。咳(せき)や痰(たん)、微熱が続いたり、体重減少、食欲不振、寝汗などの症状があれば、受診するだけの警戒心を皆が持ちたい。
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