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97年の通貨危機以来の打撃を受けているアジア経済をどう立て直すか。
東南アジア諸国連合(ASEAN)と日中韓など、この週末、タイに一堂に集まる東アジア16カ国首脳に与えられたテーマはこれだ。
アジア各国の危機感は深い。世界の貿易を支えてきた米国の需要が急落し、輸出を成長の糧にしてきた多くの国々が内需刺激のための財政拡大へと踏み出している。しかしなお、多くの失業者や貧困層が生まれている。
会合では各国・機構の打開策が協議される。ASEANは先に、保護主義と戦うと宣言した。韓国は自由貿易協定の網の拡大を打ち出し、中国も内需拡大に躍起だ。
麻生首相は、より長期的な構想を発表した。地域の経済規模を2020年までに2倍にする「アジア経済倍増計画」だ。中間層の購買力の拡大に支えられたアジアは「21世紀の成長センター」との認識が背景にある。
日本が不況から脱出するためにも、アジアの内需拡大が欠かせないとの首相の考え方はその通りだ。しかしその具体案が、政府の途上国援助(ODA)によるインフラ整備頼みでは、旧来の発想のままではなかろうか。
日本が地域の唯一の経済パワーであった時代は去った。今はアジア諸国が互いの経済を支え合う時代だ。とくに中国、インド、インドネシアなど人口大国とのつながりを強めて、地域全体の成長回復を図らねばなるまい。産業界にはすでにアジア市場をにらんだ動きが活発化している。
危機をバネにした経済協力は、政治や安保を含めた地域連携に弾みをつけることにもなる。
この十数年、アジアの地域協力は強化されてきた。アジア通貨危機を機に生まれたASEANと日中韓の枠組みでは、金融危機に備えた資金融通の仕組みが整備されつつある。海賊や鳥インフルエンザ、人身売買の対策、コメ備蓄など協力分野は20を超える。
ただ、実態をみれば官僚による会議や情報交換にとどまるという例も少なくない。自由貿易協定など経済ルール作りへの取り組みも国によって差がある。アジアの国々の間の投資障壁をどう撤廃していくのか。各国通貨の間の為替リスクをどう回避するのか。課題はまだ多く残っている。
なかでも、地域連携を深めるには日中の政策協調が欠かせない。両国が主導して「アジア共通通貨」を作るべきだとの構想を中曽根元首相が発表した。実現へのハードルは高くても、議論に値する壮大な提案だ。
「東アジア共同体」は、高い理想を掲げるだけで実現するわけではない。持続的な経済発展や紛争の回避といった共通利益を、冷静かつ徹底的に追求する努力が肝要だ。
とりあえずは無事、職務に復帰したと見せたかったのだろう。北朝鮮の国会にあたる最高人民会議の議場を金正日総書記がしっかりとした足取りで歩き、拍手する姿を伝える映像が、世界に流れた。
昨夏、脳卒中で倒れたとされて以来、多くの写真は公表されてきたが、こうした映像がその日のうちに放映されたのは初めてだ。
金総書記は「国家の最高職位」という国防委員会の委員長に3選された。その委員会も、これまでは長老のメンバーが多かったが、新たに労働党や軍で実権を握る有力幹部が加わり、国家の中枢機関としての性格を強めた。
だが、深刻な経済難など北朝鮮が陥っている苦境は変わらない。北朝鮮は、先の弾道ミサイル発射実験を「衛星打ち上げ成功」と宣伝し、金氏の国防委員長3選の慶祝とも位置づける。食糧難にあえぐ国民を思えば、何ともむなしい国威発揚である。
今回の最高人民会議に際して、金氏の健康状態とともに、後継問題が世界の大きな関心を集めた。
映像で見る限り、その姿にはやつれが目立った。絶対的な独裁者だけに、権力構造に何らかの変化が起きているのかどうか、気になるところだ。
国防委員会の拡充、強化はおそらくそこに関係していよう。トップの健康に異変があっても、統治が乱れないような態勢を築いておく。さらに後継者が決まれば、それを支える基盤として機能させるつもりなのだろう。
閉鎖的な国だけに、後継をめぐる具体的な動きはなかなか見えてこない。ただ、いずれ権力は交代する。日本をはじめ周辺国は、その時に備えて様々なシナリオを描きつつ、注視していかねばならない。
急ぐべきは、ミサイル実験に対する国際社会の行動だ。国連の安全保障理事会で、日米は決議の形で北朝鮮を非難するよう働きかけてきたが、中国やロシアの反対で難航している。
一致したメッセージを迅速に送る必要があるのに、安保理内に亀裂を生むようでは逆効果になりかねない。米中は議長声明の形で打開を探る方向だ。国際社会としての一致した、明確な態度表明を優先すべきではないか。
日本政府はきのう、北朝鮮への独自制裁を1年延長した。送金規制の強化も検討する。同時に、河村官房長官は北朝鮮が懸案解決へ行動する場合「いつでも(制裁の)一部または全部を終了できる」と述べた。
この柔軟さは評価したい。大事なのは、硬軟織り交ぜたダイナミックな外交だからだ。
核をめぐる6者協議を再起動し、拉致問題など日朝間の懸案解決の作業も急ぐ。そういう交渉に早く北朝鮮を引き出さねばならない。