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「鎌倉に元気な産声を響かせたい」

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【第56回】細谷明美さん(鎌倉市医師会会長)

 神奈川県の鎌倉市医師会が市内に産科診療所「ティアラかまくら」を開院して1か月半余り。同診療所では現在、原則として正常分娩に対応しており、3月には12人の赤ちゃんが誕生した。今後は、麻酔医や小児専門医らのバックアップも受けられる見通しで、将来的な増床も視野に入れている。日本初となる医師会立の産科診療所開設の立役者となった同医師会の細谷明美会長は、「鎌倉市内に元気な産声を響かせたい」と話している。(兼松昭夫)

■「訴訟に対応できない」当初は慎重論も

―まずは、医師会による「ティアラかまくら」開院までの経緯を教えてください。

 鎌倉市内には、20年ほど前には分娩を扱う医療機関が13軒あったほか、助産所もたくさんありました。しかし、近年はこれらの施設が急減し、2006年には1軒だけになりました。鎌倉市では例年、1300人程度の赤ちゃんが誕生していますが、昨年、市内の医療機関で生まれたのはそのうちの28%にすぎません。市長の元には「お産ができないと困る。不安だ」といった市民の声が、以前からたくさん届いていたそうです。
 こうした中で07年10月、市長から医師会に対し、「医師会立の産科診療所を開設してほしい」との要望が寄せられました。これを受けて医師会幹部と市担当者らによるプロジェクトチームが発足し、ここで診療所の運営形態などを話し合いました。その結果、市が初年度の運営費として3億円を助成する一方、経営自体は医師会が担う方向が固まったのです。
 「ティアラかまくら」が開院したのは2月17日で、3月からお産の取り扱いを始めました。同月内には12人の赤ちゃんが誕生しています。

―「ティアラかまくら」を医師会が運営することに、医師会内部に反対はありませんでしたか。
 医師会には200人近い会員が居ますが、産科診療所を開設することに全員が賛成したわけではなく、「総論賛成、各論反対」といった状況でした。開設に慎重なスタンスを示す先生方からは、「訴訟が発生しても対応できない」「なぜ市立にしないのか」といった声が多く、特に産科の先生方には、「麻酔医や小児科医を確保しなければ、運営は難しい」といった懸念もあったようです。産科の先生だからこそ、こうしたことが心配だったのでしょう。
 わたしたちは各地区で説明会を開き、訴訟費用が発生したら市で負担することや、産科医などのスタッフは医師会が責任を持って探すことなどを説明して回りました。
 その後に開いた総会で、産科診療所の開設を医師会として正式に決める一方、市議会でもこうした方向が承認され、市と医師会は昨年6月に、費用負担の在り方などに関する協定を交わしました。

―市立ではなく、医師会立としての開設を決めたのはなぜですか。
 市の説明では、市立として立ち上げた場合には、スタッフの新規採用や増床などの方針を決めるのに、いちいち市議会の承認を得なければならず、小回りが利かないというお考えがあったそうです。このほか、市が運営したのでは、スタッフの確保が難しいという懸念もあったと聞いています。
 ただ実際には、スタッフ集めがうまくいったのは、市によるところが大きかったのです。市が広報誌にスタッフの募集を掲載すると、応募が相次ぎました。こうしたこともあり、医師については、当初想定していた常勤2人を上回る3人体制を確保できました。

―正常分娩に対して市が助成しなければならない状況が、産科医療を取り巻く現状を示唆していると思います。ただ一方で、こうした形には、ともすれば近隣地域などから「民業圧迫だ」といった批判が出そうな気もします。
 わたしたちもその点は懸念していましたが、実際にはそうした苦情はありませんでした。近隣地域の産科の先生方も、集中する分娩に対応し切れない状況なのかもしれません。

―開院して間もなく、院長が辞任したとの報道もありました。
 前院長は、一部の人事に不満があったようで、開院後すぐに辞任の申し出がありました。このため現在は常勤医2人、助産師9人、看護師2人、事務スタッフ2人体制で運営しています。前院長の辞任は新聞各紙に報道されましたが、現在では円滑に運営されています。

■他地域からの視察も

―ハイリスク分娩には、どのように対応する方針でしょうか。
 「ティアラかまくら」では、原則として正常分娩だけに対応し、ハイリスクの妊婦さんは三次救急に対応している大学病院など3つの病院に事前に紹介するようにしています。分娩時まで異常に気付かなかったり、分娩の際に異常が発生したりするケースについても、3病院に受け入れを依頼し、これらの病院で受け入れが困難であれば、代わりの受け入れ先を探していただけることになっています。

―市内では産科診療所の数が減っているというお話でしたが、こうした状況はいつごろから顕在化し始めたのでしょうか。
 最初にもお話しましたが、市内にはかつて、分娩を扱う医療機関や助産所がたくさんありました。ところが気が付くと、06年にはこうした施設がほとんどなくなっていたのです。まさに、いつの間にかという感じでした。小児の診察時に母子手帳を確認していると、市内で生まれた子どもが減っていると実感させられます。
 こうした状況は、近隣地域でも大なり小なり見られるようです。確かな理由は分かりませんが、帝王切開を受けたお母さんが亡くなり、産科医が逮捕・起訴された「大野病院事件」の影響も大きかったのではないでしょうか。

―病院などによる産科の閉鎖が相次いでいます。こうした中で、「ティアラかまくら」のような運営形態を取ることは、他の地域でも可能でしょうか。
 現在は、財政難から市立病院の診療科を縮小したり、病院自体を休止したりすることも、珍しくはありません。自治体の財政が逼迫(ひっぱく)している状況では、同じような形態を取ることは厳しいでしょう。ただ、他地域の市長と医師会幹部らが同行して「ティアラかまくら」を視察するケースもあります。このため、わたしたちの取り組みが成功すれば、こうした形がある程度は広がる可能性もあるとも感じています。

―今後は、「ティアラかまくら」をどのような形で発展させるお考えでしょうか。
 「ティアラかまくら」では、オープンシステム形式による運営を目指しています。例えば市内の産科の先生方は、こちらに妊産婦を紹介するだけでなく、心配なら分娩に立ち会うこともできます。4月4日には、帝王切開を初めて実施しましたが、市内の病院に麻酔医の派遣を依頼したため、スムーズに対応できたようです。このように会員同士で助け合える点も、医師会が運営する上での大きなメリットだと思います。

 今回、ご協力いただいたのをきっかけに、この麻酔科の先生とは今後は週2回、「ティアラかまくら」で診察していただく方向で交渉しています。このほか4月からは、横浜市立大から小児専門医が来てくださることになっています。今後も診療体制を充実させ、幅広いニーズに応えていきたいと考えています。現在は8床しかないので、対応できる分娩数は限られますが、将来的には増床もあり得るでしょう。

 赤ちゃんがいると、地域全体が活気づきます。たくさんの分娩に対応し、元気な産声を鎌倉市内に響かせることができれば素晴らしいと思います。

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更新:2009/04/11 10:00   キャリアブレイン

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