将棋の第67期名人戦7番勝負の第1局が10日、東京・椿山荘で行われ、羽生善治名人(38)が対局中にフリーの観戦記者からサインを求められる前代未聞の事件が発生した。郷田真隆9段(38)の挑戦を受けていた羽生名人はサインに応じたが、主催の朝日新聞社では、観戦記を依頼したこの記者を厳重注意した。
朝日新聞社広報部によると、事件が起きたのは午前9時45分ごろ。観戦記を委託したフリーの男性記者(75)が、羽生名人に扇子を差し出してサインを求めたという。このとき、名人は44手目を考慮中だったが、サインに応じた。
サインを求められてから書いて渡すまで、約1分ほどという。記者は郷田9段の手番の最中と勘違いしたようで、同社の担当者が、昼休み休憩に、記者に「対局中に対局者に声をかけるような行動は慎んでほしい」と注意。記者は「うかつでした」と話しているという。
この記者は76年から99年まで、同社の嘱託として観戦記などを書き、その後はフリーの観戦記者として活動。羽生名人とは、名人がプロになって以来の親しい関係とのことで、サインを頼んだと見られる。
同社では「今回の行為は、名人戦の運営、対局を妨げる行為」として関係各位や両対局者におわびした。これに羽生名人は「突然のことだったので戸惑ったが、10秒、20秒のことなので対局に影響はなかった。個人的には特に気にしていない」と大人の対応をした。
対局中の棋士にサインを求めることは通常では考えられず、この場面がテレビ放送されたこともあり、日本将棋連盟にも問い合わせがあった。
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