2009-04-06
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加藤さんが笑ってる。
イルカやアシカのショーを見て笑ってる。
小さいころにご両親と来たきり、水族館には縁がなかったと言っていた。
別荘行きが決まったときから、この水族館へ立ち寄ろうと、密かに計画していたらしい。
『美里くんと一緒に見たかったんだ』
…………そんなこと、言われたら……。
俺は、零れそうになる溜め息を飲み込んだ。
俺は、高速に乗る前に、加藤さんに連れられて入った店で、別荘行きに必要なものを買い込んだ。
フォーマルな服やパジャマ、それに、お泊りに必要な小物とか。
そのときに、普段着も選んで店で着替えていけと加藤さんに言われて、ちょっと変だなとは思っていたんだけど。
まさか、水族館デートのためだとは思わなかった。
知人には会わないだろうと踏んで、加藤さんのご家族対策に、俺はいつもより女性っぽい服を選んでいた。
といっても、シンプルなハイネックの袖なしカットソーとジーンズなんだけど。
それでも、いつものだぼっとした服装より、偽胸のラインがはっきりとわかるタイトなトップスなので、どこからどう見ても女性にしか見えない。
水族館は、家族連れが多く、時折、カップルも見かけた。
きっと、加藤さんと並ぶ俺は、周囲の人からは加藤さんの恋人にしか見えていないはず。
だから……。
腕を組んだりとか、肩を抱かれたりとか、ほかの恋人達がしていることを。
俺が加藤さんにねだったところで、なにも不思議なことはないし、むしろ自然に見えるだろう。
…………そんなことを考えている自分が、……情けなかった。
決めたはずじゃないか。
この恋は、諦めるって。
離れられなくなる前に、シナリオを終わらせて。
加藤さんの邪魔にならないように消えようって。
引き返せる……、いまのうちに…………。
……もしかして……、もう……手遅れなのか?
もうすでに……、引き返すなんて…………できないんじゃ……。
「美里くんっ、見てごらん、ペンギンが歩いてるっ」
加藤さんの、少し興奮した声に促されて見た先で、ペンギンたちが行進している。
飼育員に連れられて、どうやら散歩中のようだ。
よちよちとバランス悪く歩くさまは、懸命に見えてかわいかった。
加藤さん。
いまの俺、どう見ても『美里さん』の格好なのに、『美里くん』だって……。
楽しそうに見える加藤さんは、きっと本当に、心から楽しんでるんだ。
シナリオなんか、頭の隅にもないんだろう。
それが、なんだか……、嬉しくて……。
ああ、だめだ。
ペンギンもかわいいけど、それに夢中になってる加藤さんもかわいい……。
………………重症だ……。
もう……、引き返せないのかもしれない。
自分を自分でとめられない。
加藤さんに惹かれる心のままに、行き着くところまで惹かれてしまいたい。
諦めようとしている反面、心のどこかに、それを望んでいる自分がいる。
ダメだろうか……。
最後には、きっと泣くかもしれない。
離れたくないと、苦しむかもしれない。
でも、いまここで、シナリオを放り出して逃げ出すことができないのなら……。
どんなに無駄な抵抗をしたところで、加藤さんを好きなこの気持ちをとめられるはずがない。
それなら……。
……それならいっそ……。
「美里くん? 疲れちゃったかい?」
やさしくそう問われて、ゆるゆると首を振る。
心配そうに俺を覗き込んでくる加藤さんへ、そっと手を伸ばしたら……。
その手を加藤さんの腰へ回されて、しっかりと抱き寄せられた。
大きな胸に頬を寄せて、俺は、潤んできた視界をそっと締め出す。
いまだけ……。
いまだけだから……。
『美里さん』でいる間だけ、素直に甘えてしまおう。
いまはまだ、『美里さん』は、加藤さんの恋人だし。
いずれ、別れのときが来たら、そのときは……。
崎兄にでも抱きついて、……思う存分泣けばいい。
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2009/04/05 INポイント100 BL小説23位
たくさんのぽちを、いつもありがとうございます!
美里の切ない気持ちが苦しいですが、気合入れて頑張ります!
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加藤さんが笑ってる。
イルカやアシカのショーを見て笑ってる。
小さいころにご両親と来たきり、水族館には縁がなかったと言っていた。
別荘行きが決まったときから、この水族館へ立ち寄ろうと、密かに計画していたらしい。
『美里くんと一緒に見たかったんだ』
…………そんなこと、言われたら……。
俺は、零れそうになる溜め息を飲み込んだ。
俺は、高速に乗る前に、加藤さんに連れられて入った店で、別荘行きに必要なものを買い込んだ。
フォーマルな服やパジャマ、それに、お泊りに必要な小物とか。
そのときに、普段着も選んで店で着替えていけと加藤さんに言われて、ちょっと変だなとは思っていたんだけど。
まさか、水族館デートのためだとは思わなかった。
知人には会わないだろうと踏んで、加藤さんのご家族対策に、俺はいつもより女性っぽい服を選んでいた。
といっても、シンプルなハイネックの袖なしカットソーとジーンズなんだけど。
それでも、いつものだぼっとした服装より、偽胸のラインがはっきりとわかるタイトなトップスなので、どこからどう見ても女性にしか見えない。
水族館は、家族連れが多く、時折、カップルも見かけた。
きっと、加藤さんと並ぶ俺は、周囲の人からは加藤さんの恋人にしか見えていないはず。
だから……。
腕を組んだりとか、肩を抱かれたりとか、ほかの恋人達がしていることを。
俺が加藤さんにねだったところで、なにも不思議なことはないし、むしろ自然に見えるだろう。
…………そんなことを考えている自分が、……情けなかった。
決めたはずじゃないか。
この恋は、諦めるって。
離れられなくなる前に、シナリオを終わらせて。
加藤さんの邪魔にならないように消えようって。
引き返せる……、いまのうちに…………。
……もしかして……、もう……手遅れなのか?
もうすでに……、引き返すなんて…………できないんじゃ……。
「美里くんっ、見てごらん、ペンギンが歩いてるっ」
加藤さんの、少し興奮した声に促されて見た先で、ペンギンたちが行進している。
飼育員に連れられて、どうやら散歩中のようだ。
よちよちとバランス悪く歩くさまは、懸命に見えてかわいかった。
加藤さん。
いまの俺、どう見ても『美里さん』の格好なのに、『美里くん』だって……。
楽しそうに見える加藤さんは、きっと本当に、心から楽しんでるんだ。
シナリオなんか、頭の隅にもないんだろう。
それが、なんだか……、嬉しくて……。
ああ、だめだ。
ペンギンもかわいいけど、それに夢中になってる加藤さんもかわいい……。
………………重症だ……。
もう……、引き返せないのかもしれない。
自分を自分でとめられない。
加藤さんに惹かれる心のままに、行き着くところまで惹かれてしまいたい。
諦めようとしている反面、心のどこかに、それを望んでいる自分がいる。
ダメだろうか……。
最後には、きっと泣くかもしれない。
離れたくないと、苦しむかもしれない。
でも、いまここで、シナリオを放り出して逃げ出すことができないのなら……。
どんなに無駄な抵抗をしたところで、加藤さんを好きなこの気持ちをとめられるはずがない。
それなら……。
……それならいっそ……。
「美里くん? 疲れちゃったかい?」
やさしくそう問われて、ゆるゆると首を振る。
心配そうに俺を覗き込んでくる加藤さんへ、そっと手を伸ばしたら……。
その手を加藤さんの腰へ回されて、しっかりと抱き寄せられた。
大きな胸に頬を寄せて、俺は、潤んできた視界をそっと締め出す。
いまだけ……。
いまだけだから……。
『美里さん』でいる間だけ、素直に甘えてしまおう。
いまはまだ、『美里さん』は、加藤さんの恋人だし。
いずれ、別れのときが来たら、そのときは……。
崎兄にでも抱きついて、……思う存分泣けばいい。
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