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“親日”台湾映画に噛みついた中国の狼狽(3)

『海角7号』に熱狂した台湾庶民はやっぱり親日だった。
中国発のネガティブキャンペーンの舞台裏を暴く


ノンフィクション作家 河添恵子

■日台の恋愛を描いた「媚日作品」と中傷

 中国政府による台湾映画『海角七号』への反応は、なんとも不気味だ。

 昨年十月中旬には『海角七号』の興行成績などがストーリーを交えて報道され(ただし、物語の中心でもある日台の「恋愛」には触れなかったが)、当初は年内に公開される見込みだった。台湾映画の中国本土公開は十七年前の『媽媽再愛我一度(お母さん、もう一度愛して)』以来だから、ビッグニュースといえよう。台湾の中華影視聯合総会の王応祥会長も、「検閲も無事通過。どこも切られなかった!」と大喜び、魏監督とキャストらがPRのため中国へ駆けつけ、トントン拍子のハズだった。

 中台双方を気遣ってか、馬英九総統も見せ場を作った。十二月初旬、海外向けラジオ局「中央広播電台」とインターネットを通じて中国本土の一般市民と直接話し合うという初の試みを行い、その際、「台湾を知る第一歩となるはず。作品として寛容な態度で見て欲しい」などと自ら映画の広報マンを買って出た。

 ところがこの頃から、中国側の雲行きが怪しくなる。映画輸入の権利を有する政府系の中国電影集団が、「中国語(簡体字)版の字幕が間に合わない」「海賊版DVDが出回っている」などを理由に一月以降の上映にも否定的な見方を示したのだ。ネット上でも「日本統治時代を美化」「媚日作品」などお決まりの誹謗中傷が始まった。

 政府系通信社『新華網』など中国官製メディアも一斉に、「『海角七号』は大毒草だ!という論争が台湾で盛り上がっている」というネガティブ記事(十二月三日)をネットで配信。

「台湾の著名な伝記作家、王豊が『鳳凰博報』のブログで…」という引用形式で、「日本帝国主義を褒めたたえなくとも、少なからず感傷的に昔を顧みている(中略)この映画は日本人の魂で問題を考えており、日本の植民地文化の暗い影がある」と記し、「この意見は大きな反響を呼び、中国では上映をボイコットする声が大きくなり賛成側と反対側との論争がエスカレートしている」と伝えた。

 記事の締めくくりは「台湾で最も貴重なものは中国文化の遺産で、台湾意識や台湾精神は台湾独立ウィルスの変種に過ぎない、と(王豊が)強調した」。

 ところで、「台湾の著名な伝記作家、王豊」なる人物は一体何者なのか? ネットで検索しても、中国官製メディアの関連記事でしかヒットしない。しかも記事によれば「王豊が十月十日に書いたブログが論争の発端」らしいのだが、周囲の台湾人に十二月に入って尋ねても、「大毒草論争なんて知らない」という返事。

 うーん、胡散臭い。『海角七号』の日本上映の交渉も始まっていた時期だったし、日台の絆に楔を打ち込もうとする自作自演だったのかも…。

 当初から、中国がスンナリと上映にこぎつけるハズがない。ドタキャンしたり、勿体ぶったり、偉そうに品評したりするだろうとは想像していたが、中国国務院の台湾事務弁公室のスポークスマンが“中台関係のハネムーン”を演出するためなのか、「上映は計画中であり、配給会社が検討している」と述べるなど態度を一変。一月中旬には中国電影集団のスポークスマンが突如、「ラブストーリーであることと絡め、二月十四日のバレンタインデーより全国で同時公開。中国でも大ヒットが期待できる」と発表した(ただし「日台のラブストーリー」とは言っていない!)。

 ということで、二転三転した上で『海角七号』の中国本土公開がようやく実現しそうな情勢になったが、中国政府はこの“親日的映画”を、ただで上映させるつもりはないようだ。

 続く

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 【略歴】河添恵子氏
 昭和38(1963)年、千葉県生まれ。名古屋市立女子短期大学を卒業後、1986年から北京外国語学院、翌87年から遼寧師範大学へ留学。主に中国、台湾問題をテーマに取材、執筆活動を続ける。『台湾 新潮流』(双風舎)、『中国マフィア伝』(イースト・プレス)、『中国人とは愛を語れない!』(並木書房)など著書・訳多数。