政治

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷

臓器移植法:改正案、WHO動向が背景に 「海外禁止」検討、河野議長も前向き

 臓器移植法改正案を今国会で採決する機運がにわかに盛り上がってきた。党派を超えた議員の死生観の違いから議論が進んでいなかったが、世界保健機関(WHO)が海外での移植の原則禁止を検討していることに加え、臓器提供を受けた経験のある河野洋平衆院議長らも法改正に動いたことで、与野党が重い腰を上げた。それでも現時点では成立する保証はないのが実情だ。

 「あなたは優秀な息子さんがいて、今も健康だ。しかし、そうでない方もたくさんいる。だから、あなたが議長のうちに何とかやりましょう」

 8日夜。首相公邸での会合で、自民党の細田博之幹事長は河野氏に法改正を進言した際のやりとりを披露した。河野氏は長男の河野太郎衆院議員から生体肝移植を受けている。細田氏の話を聞いた麻生太郎首相は「今国会で結論を出そう」と応じた。

 首相は旧河野派(現麻生派)出身で、河野氏と近い。同席した与党幹部は「細田さんが河野さんを通じて首相を動かした」と感じた。今期限りで引退する河野氏も法改正に前向きだという。

 9日には、自民党の大島理森国対委員長が呼応した。鴨下一郎国対副委員長に採決までの道筋を検討するよう指示。3法案の一本化ができない事態も想定し、与党内には委員会で審議せず、3法案を直接本会議に上程する構想も浮上している。しかし、子供の臓器提供に抵抗感を持つ議員も少なくなく、いずれの法案も過半数を得られない可能性もある。【高山祐、木下訓明】

 ◇議員に抵抗感、成立の保証なく

 臓器移植法は97年10月に施行された。施行後3年をめどに見直すという付則があるが、これまで実質的な審議はなかった。今回の改正論議本格化の背景には、臓器提供者の不足だけでなく国際的な動向がある。

 世界保健機関(WHO)は1月、理事会で海外での移植を規制する方針を総会議案に盛り込んだ。現在小児の心臓移植は国内ではできず、海外での移植に頼っている。日本移植学会は「5月のWHO総会後は小児の心臓移植の道が閉ざされる」と移植法の早期改正を訴えている。

 一方、法施行後10年以上たつが脳死移植は81件で年間数は米国の100分の1以下。臓器提供者の増加を目指し、06年にAB両案、07年にC案が国会に提出された。3案とも継続審議となっている。

 家族の同意で提供可能なA案は「脳死は人の死」と一律に規定するうえ、虐待を受けた子どもが親の同意で提供者となる恐れも否定できない。B案は本人の同意が必要など、現行法の原則を変えないため、臓器提供者がそれほど増えない、との見方がある。9日には心臓移植を受けられずに亡くなった子どもの親たちが、A案への改正を求める約3万8000人の署名を国会に提出した。【関東晋慈】

毎日新聞 2009年4月10日 東京朝刊

政治 アーカイブ一覧

 

特集企画

おすすめ情報