きょうの社説 2009年4月10日

◎新幹線の開業前倒し 地方が声を上げ景気対策の柱に
 追加経済対策の一環として政府の補正予算案に盛り込まれる整備新幹線建設事業費千百 億円は、未曾有の不況に苦しむ地域経済浮揚の切り札になり得る。これで北陸新幹線の開業前倒しも現実味を増すし、通常は三分の一とされている地元負担の一割への軽減も、財政事情の厳しい自治体には大きなプレゼントだ。

 整備新幹線は航空機などと比べて地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出量が少なく 、建設中の区間については収支採算性や投資効果も高いと見込まれている。開業前倒しは、沿線やJRのみならず国全体の利益になり、エコをテーマとした追加経済対策にぴったりである。先入観にとらわれ、新しい時代の交通体系の構築につながる新幹線を正しく評価できない一部メディアの批判を恐れず、地方からも声を上げて景気対策の柱に押し立てていきたい。

 千百億円という金額は補正としては過去最高であり、こちらも過去最高額だった当初予 算と合わせると、総事業費は四千六百億円を超える。北陸などにとっては、新幹線のつち音が不況下での数少ない「希望の光」となっていることを考慮すれば、このくらい思い切った予算の積み増しがあってもいいだろう。

 せっかく大きな予算を投入するのだから、区間別配分でも大胆に重点化を図ってほしい 。単に工事が増えるだけでも、経済対策としてそれなりの効果は見込めるのだろうが、「選択と集中」によって完成時期が近い事業の開業を早め、効果を早期に発揮させるという視点も大事である。

 北陸新幹線については、工事の遅れの原因になりやすい用地取得もおおむね順調に進ん でいる。かつての延伸論議の際に工期を短縮できない要因の一つと指摘されたことがある富山駅も、来年度早々には新幹線の高架橋工事が始められる状態になる。開業前倒しを妨げる物理的な壁は、現時点では見つからない。「競合相手」を見渡しても、東北は既に完成間際であり、北海道や九州・長崎ルートは進捗(しんちょく)率がまだまだ低い。補正予算を北陸に重点配分し、早期開業を目指してほしい。

◎北陸の耕作放棄地 地域挙げて荒廃止めたい
 農林水産省が初めて行った耕作放棄地の全国調査は、原野化など農地の荒廃が急速に進 んでいる実態を示した。北陸では特に石川県の耕作放棄地の多さが目立っている。農地はいったん荒れ果てると、元に復するのは大変難しい。農業者だけでなく、地域の人たちの協力も得て農地の再生、保全を図りたい。

 農水省の調査によると、現状のままでは耕作に使えない農地が二十三万千ヘクタール確 認された。北陸では富山県が五百五十一ヘクタール、福井県が千百五十一ヘクタールと比較的少ないのに対し、石川県は中山間地が広く、能登を中心に過疎、高齢化の進行が早いことなどから六千八百八十九ヘクタールにも達している。

 農水省は食料供給力を強化するため耕作放棄地の再生、利活用にようやく本腰を入れ始 めたところである。各自治体は大規模農家や農業法人の経営拡大、新規就農者の育成、一般企業の農業参入の推進などを通して耕作放棄地の解消に努めてもらいたい。

 ただ、耕作放棄地の営農再開は一朝一夕に進むものではなく、まず原野化を食い止める 取り組みも重要である。例えば、富山県は今年度、観光地に向かう道路沿いの景観向上のため、沿道の耕作放棄地を復元し、ヒマワリやコスモスなどの景観植物を植える地域の活動を補助金で支援する。農地保全と美しい農村景観づくりの一石二鳥を狙ったこうした試みは、もっと積極的になされてよい。

 また、輪島市門前町剱地地区の住民は昨年、耕作放棄地対策に取り組む組織として「農 村景観守り隊」を結成し、手始めに耕作放棄地の草刈りを行った。中山間地の農地の荒廃防止は里山保全の観点からも重要であり、地域ぐるみの協力体制づくりを望みたい。

 農水省は今年度、耕作放棄地の再生事業に助成金を出す制度を設けている。ただ、完全 復元は現実には無理があり、人口減少に伴って耕作地が減るのも避けられないとなれば、場所によっては原野や森林に戻すのも選択肢であり、自然の摂理でもあると思われる。政府、自治体は農地の適否をきちっと見極めてもらいたい。