政府は10日、景気の急激な悪化を食い止め、新たな成長への転換を目指した追加経済対策を決定する。09年度当初予算が成立して間もない異例の時期の策定に加えて、規模も財政支出(国費)15兆4000億円、事業費56兆8000億円と史上空前の水準に達する。
追加対策は景気底割れ回避の緊急施策に加え、中長期を展望した低炭素社会づくりや21世紀型インフラ整備などの施策、国民の安心や安全を実現する子育て対策などが盛り込まれる。この筋立ては理路整然としており、無駄を排除しているようにもみえるが、実態は全く異なる。旧態依然とした対策の策定過程といい、与党の選挙向けとも受け取られる要求に最大限の配慮をしたことといい、与党の言い分には疑問を持たざるを得ない。
最大の問題は、規模を膨らますことが先行し、それに基づき与党内や経済界などの要求や要望を盛り込むことになった点だ。政府が月末にも提出する補正予算の基礎になる財政支出額は当初予算の一般歳出51兆7000億円の約3割にも相当する。
この時期に、15兆円もの予算を組むとなれば、党利党略と受け取られかねない施策や、企業優遇、富裕者優遇の施策も少なからず入ってくる。大衆迎合的な施策も入りやすい。景気に効果のある施策を積み上げることで規模を確定するという本来の対策策定プロセスが逆転したことのマイナスはあまりに大きい。
幾つか例を挙げよう。贈与税優遇措置は住宅購入時に限定されたが10年末までの時限措置として実施される。4月から税制優遇措置が始まっているエコカーのさらなる購入促進策も講じられる。地上波デジタル化のためのテレビ購入補助も入った。
環境にやさしい自動車の普及は悪いことではないが、低炭素社会を視野に入れるのであれば、マイカーに頼らなくてもいいまちづくりや地域づくりに力を入れるべきなのだ。
さらに、08年度の第2次補正予算で第2子以降に導入済みの子育て支援策を、第1子についても1年限りの措置として拡大する。ちなみに、民主党は中学卒業まですべての子どもに1人月額2万6000円の子ども手当を掲げている。
こうした大盤振る舞いは大半を国債の増発で手当てしなければならない。これだけでも09年度の国債の新規発行は40兆円台半ばに達する。夏以降、さらなる追加対策が講じられれば50兆円に迫る。本当に「100年に1度」の危機であっても、将来に禍根を残す財政運営は許されるはずはない。財政を壊した時、そのツケはとてつもなく大きい。それを忘れてはならない。
毎日新聞 2009年4月10日 東京朝刊