社説

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社説:両陛下の半世紀 「象徴」のあり方求め続け

 天皇、皇后両陛下が金婚の日を迎えられた。お二人がともに足跡をしるした50年は、この国が大きく変転した時代であり、皇室のあり方も絶えず注目されてきた。この慶事に自分や家族の半生を重ねて思い返す人も多いだろう。

 ご結婚の日、毎日新聞の社説は、「こぞってめでたさをよろこびあう日は、敗戦このかたはじめてではなかろうか」と列島のお祝いぶりを評した。旧時代、政府が形式を押しつけ津々浦々で同じ行事をさせた「奉祝」とは全く異なる、めいめい自由な祝福。屈託のない「ミッチーブーム」。社説は「今後の皇室のありかたについて、暗示を受ける思いをする」と将来へ目を向けている。

 戦後の「象徴天皇制」の皇室が国民の間にどう受け止められ、根差しているか。判然としない中、お二人の婚約、結婚は予想以上の好感をもって迎えられた。高度経済成長へ走り始めたころであり、テレビ普及や週刊誌創刊などメディアも広がった。そうした時代の躍動感があの華麗な馬車パレードの光景と重なる。

 民間から皇太子妃という初の出来事は新風を皇室に吹き込んだ。一方で壁もあった。今回の記者会見で陛下は「2人は育った環境も違い、特に私は家庭生活をしてこなかったので皇后の立場を十分に思いやることができず、加えて、大勢の職員と共にする生活には戸惑うことも多かったと思います」と振り返った。

 そうした中で、慣習を改めて子供は手元で育てるなど、お二人で新たなライフスタイルをつくっていくことに時代と社会は共感した。

 その姿勢は今、よりはっきりしている。陛下は、今回の会見で「象徴とはどうあるべきかということはいつも私の念頭を離れず、その望ましいあり方を求めてこんにちに至っています」と語っている。宮中祭祀(さいし)など古い伝統文化は守る一方、後に始められた行事などは形より意義を重視したいという。例えば、学士院賞受賞者らとの茶会は、お二人が受賞者全員と懇談できるように変えた。

 日々の行事だけではなく、陛下が皇后さまと心を傾ける戦争犠牲者慰霊、大災害被災者慰問など、多くの事柄はお二人の「常に国民とともに」という考え方が貫かれている。

 すべてが平たんではない。

 ご健康問題は公務負担減などできちんと対策を講じてほしい。将来を見据えた皇位継承問題は制度上先送りできない課題だ。また、一般の家庭と同様に、考え方や価値観の違いが身近な間で出ることもあろう。

 大切なのは、そうしたことがむやみにタブー視されたり、逆に興味本位で騒がれたりせず、開かれた論議をし、温かく見守る姿勢だろう。

毎日新聞 2009年4月10日 東京朝刊

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