大阪大病院は、さまざまな細胞になる能力を持つ人工多能性幹細胞(iPS細胞)の研究組織「ヒトiPS細胞臨床研究センター」を設立、心臓血管外科の澤芳樹教授や内科・小児科の研究者らがiPS細胞を使った心臓・肝臓疾患などの治療を目指し研究をスタートさせた。iPS細胞を開発した山中伸弥・京都大教授と連携して細胞作成や培養の技術を共有、阪大全体で研究の加速を図る。
センターは今年3月設立。重症になると心臓移植が必要な「拡張型心筋症」の患者の心筋細胞からiPS細胞を作り、遺伝子異常と病気の関連などを調べる。糖尿病や肝臓病の患者からも細胞を提供してもらい、iPS細胞を作成。効率よく肝臓や膵臓(すいぞう)の細胞に分化させ、病気の原因解明などを目指す。阪大は国内の心臓移植治療で中核を担っており、豊富なノウハウをiPS細胞を使った研究でも生かす。
澤教授らは、マウスの細胞から作ったiPS細胞を99%以上の割合で心筋細胞に分化。シート状にして心筋梗塞(こうそく)のマウス8匹の心臓に移植し、うち4匹で心機能が改善する効果を確認した。現在は、ヒトのiPS細胞から作った心筋細胞を、同様にラットへ移植する研究に取り組む。
一方、iPS細胞の性能を検証するため、受精卵から作るタイプの万能細胞、胚(はい)性幹細胞(ES細胞)の研究も国へ申請して始める。
澤教授は「iPS細胞を治療に使うにはまだ何年も研究が必要だが、院内に拠点を置くことで常に臨床応用を意識しながら研究を進めたい」と話している。【野田武】
毎日新聞 2009年4月10日 2時30分