●異例づくしの発表会
関係者に聞くと、以前からこの時期の発表を予定していたものの、それにふさわしい規模の会場が確保できず、結果として、CEATEC会場のソニーブース前という異例ともいえる場所での発表になったという。 そのため、会見時間には報道関係者に混じって、話を聞きつけたり、偶然通りかかったCEATECの一般来場者が何重にも取り囲み、そのなかには、競合他社の幹部なども混じるという、これも異例の状態となった。 当日は、12時過ぎから、CEATECの開幕にあわせて懇親会が開催される予定であったことから、家電メーカー各社の社長なども、懇親会前の空いた時間を利用して、自らのブースなどを視察している時間帯にも当たった。シャープの町田勝彦社長は、シャープブースとソニーブースが近かったこともあって、会場視察の途中にそのままPSXの会見にも偶然参加してしまった。さらに、DVDレコーダー「DIGA」が好調な松下電器も、DVDレコーダー事業に関わる幹部および広報関係者が人だかりの最後部に陣取っていた。 価格が発表されたとたん、松下の広報担当者が会場から駆け出し、携帯電話で連絡していたのは、会見場でみかける通信社や日刊紙記者さながらの様子だった。 会場が見つからなかったという裏事情はあるものの、競合他社の社長や幹部、広報担当者までもが出席するというのは、前代未聞の会見だったといえよう。それだけ、この製品に対するソニーの自信が表れているともいえそうだ。
●PSXの価格は高いのか、安いのか?
これに関して、「高い」と「安い」の両極端に、意見が大きく割れている。 「高い」という声だは、主に、ゲーム専用機という捉え方をベースにした業界関係者に多い意見だ。 ゲーム専用機という発想であれば、確かに下位モデルで79,800円という価格設定は高いと言わざるを得ないだろう。事実、この価格設定で玩具店が大量販売できるかというと疑問がある。仮に、ハードディスクを80GBや40GBにし、59,800円という製品が用意されれば、こうした意見もきっと払拭することができたのだろう。 ただ、ソニーの久多良木健副社長が「PSXは、PlayStation 2の機能、ノウハウを利用して、どこまでデジタル家電を実現できるのかへの挑戦」と語るように、基本的にはデジタル家電、AV機器という範疇の製品と位置づけており、販売ルートも家電量販店が主力となることが明らかになっている。ソニー関係者の間からも、「ゲーム機市場を想定した59,800円という価格設定は最初から考えていなかった」という声が聞かれ、やはりAV機器としての考え方での製品企画と価格設定が進んでいたことがわかる。 そうした意味で、このAV機器(つまり、HDD+DVDレコーダー)という捉え方をすれば、今回の価格設定はあまりにも「安い」といわざるを得ない。 例えば、松下電器のハイブリッド機としては最下位となる80GB HDD搭載のDVDレコーダーは、現在実売価格で7万円前後、120GBの製品であれぱ8万円台の価格で購入できる。これに対して、79,800円と発表されたPSXは、160GBのHDDを搭載、しかもPlayStation 2の機能を搭載しており、割安感は絶大だ。 今回のPSXの価格について、「高い」という声と、「安い」という両極端の声が混在するという不思議な現象は、こうした考え方のスタンスの違いで出てきたものなのだ。
●AVマージンか、ゲーム機マージンか?
それは、マージン設定に絡むものだ。 先に触れたように、PSXは、デジタル家電、AV機器として製品企画が行なわれている。そして、主要販売ルートは家電量販店となり、プレイステーションの主力ルートである玩具ルートは、補完的販売ルートとして使われる。 だが、ここで大きな問題となるのは、家電量販店と玩具ルートの商習慣の違いだ。 玩具ルートでは、PlayStation 2本体の販売方法を見てもわかるように、大幅な値引き販売というのは少ない。というのも、販売店への卸売価格が9掛け(希望小売価格の90%が卸値)程度となり、販売店が得られるマージンが約10%と極めて少ないからだ。この設定のために、定価に近い販売が行なわれているのである。 だが、家電量販店が扱う製品は、通常、約65〜70%で卸され、販売店マージン幅が大きい。このマージンを利用して、大幅な店頭値引きが行なわれるのだ。 ところで、PSXなのだが、ソニーがデジタル家電と位置づけ、主要販売ルートも家電量販店としている以上、当然、AV機器と同じマージン設定がされるのが通常の考え方だ。 しかし、こんな声も出ている。 「あの価格設定では、AV機器としてのマージン設定は不可能」 これは、ある競合メーカー幹部の声だ。 もし、PSXの価格設定で、AV機器と同様のマージンが設定されたら、実売価格はさらに下がることになり、ソニーの価格優位性がさらに上がることになる。 「現状の原価から考えれば、どんなにがんばってもPSXの価格設定が限界。これでAV機器のマージンとなれば、あとは赤字覚悟という話になる。PlayStation 2ならば、ハードで損をしても、ソフトで儲ければいいが、PSXでは、そのやり方がそのまま通用するわけではない」 ゲーム機のビジネスモデルは、5年間という長期間通用するハードウェアスペックを用意しながら、これを低価格で販売し普及させ、その後のソフトウェアの販売で収益を獲得するというものだ。 だが、ソニーが赤字を出してまで、PSXを普及させなくてはならない理由は見あたらない。DVD+RWの普及戦略という側面で見ても、これが大量に出回ったとしても、ソニーのうまみが大きいとは思えない。すぐ後に、Blu-rayの登場が控えていればなおさらだ。また、ネットを利用したコンテンツ配信などでの儲け方もあるだろうが、これもPSXよりもPlayStation 2で展開した方が得策だろう。 「なんらかの戦略性や、ビジネスモデルがないとすれば、AV機器並みのマージン設定は無理。必ずゲーム機並みのマージン設定になる」と、競合他社の幹部は断言する。 ソニーは、この点に関しては、「まだ話し合いをすすめてる段階にあること、また、個別の取引に関することなので明らかにはできない」としているが、量販店関係者などによると、「AV機器としてのマージン設定ではない条件での話し合いとなっている」という声が聞かれる。つまり、ゲーム機としてのマージンでの商談が水面下で進められているようなのだ。 だが、当然のことながら量販店側は、このマージン設定に強く反発している。ゲーム機の売り場に置くのならばまだしも、DVDレコーダー売り場に置く製品に、これまでの商習慣とは異なる製品を持ち込むのを嫌うからだ。 果たして、ソニーは、PSXの発売までにどんなマージン設定をするのだろうか。このマージン設定で次第で、取り扱い店舗も大きく変わってくることになるだろう。そして、このマージン設定が、我々が購入する価格にも大きく影響してくる。 「PlayStation 2の機能、ノウハウを利用して、どこまでデジタル家電を実現できるのかへの挑戦」という久多良木副社長の言葉は、CPU、OSという機能面の話だけでなく、価格設定、マージン設定という、営業戦略にも通用する言葉なのだ。
□関連記事 (2003年10月14日)
[Text by 大河原克行]
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