●PSXの発売は12月中旬?
PSXの発売のカウントダウンが始まっている。 といっても、現時点ではまだ発売日は明らかになっていない。ソニーが明らかにしているのは、年内発売ということだけだ。 多くの読者にとって、PSXに関して早く知りたい情報は発売日だろう。では、なぜソニーは、現時点になっても、発売日を明らかにしないのだろうか。 PSXのプロジェクトーリーダーである、ソニーのブロードバンドネットワークカンパニー企画管理部門企画部1課 松岡賢次統括課長は、その理由をこう語る。 「PSXには、発表以来、大きな反響をいただいている。しかし、発売したものの、出荷台数が少なく、すぐに売り切れてしまい、その後生産が追いつかず、入荷日が未定のままとなり、結局、欲しいユーザーが、PSXを手に入れられないという状況はなんとしてでも避けたい。そのため、ある程度の台数を作り溜めしておき、初期需要に対応できる体制をつくりたい。現在、販売店にどれくらいの量が必要かをヒアリングしており、その需要にあわせた台数を準備したいと考えている。発売日はそれが固まった段階で明らかにできる」 すでに、PSXは、ソニー製品の生産を担う100%子会社のソニーEMCSの木更津事業所(千葉県)で生産を開始している。PSXの仕様や価格が正式発表されたCEATECの開催時期(=10月上旬)を前後して、生産が開始されており、現時点では、かなりの台数が生産されていることが想像できる。まだ、仕様を一部修正する部分もあるようだが、それらは、ソフト面での修正であり、これからでも十分対応が可能だという。そうした点では、当初の計画通り、12月の発売が間違いないことだけは確かのようだ。
そして、繰り返し、松岡氏に質問を浴びせ、もう少し発売日を絞り込むいくつかのヒントを得ることができた。 松岡統括課長は、次のようなヒントを示す。
1)クリスマスには確実に店頭に並んでいることになる。 まるで、クイズのようだが、ここから導き出せるのは、発売日が12月中旬に設定される可能性が高いということだ。 プレイステーション2の発売日が土曜日だったことを考えると、12月13日や20日あたりがXデーということになるかもしれない。また、スゴ録が金曜日の発売だったことを見れば、19日という線もあるかもしれない。 ただ、あくまでもこれは推測にすぎない。 しかし、発売日の正式発表が今後2週間以内に行われること、そこで明らかになる発売日についても、そろそろカウントダウンのタイミングといえる段階に達してきたのは確かだろう。
●PS2機能を削ることも検討した
松岡統括課長は、PSXに関して、ひとつの見方を示した。 それは、「自動車に例えれば、ホンダのフィットなどにあたるだろう」という考え方だ。 フィットは、多くのユーザーが手軽に扱えること目指して開発された大衆車(=スモールカー)だ。昨年、33年間連続首位だったトヨタのカローラを抜いて、初の年間首位になったとして話題を集めた車である。 もちろん、PSXをプレイステーション2の上位製品という見方をすれば、とてもフィットの表現は当てはまらない。むしろ、高級車のイメージだ。 だが、松岡統括課長は、最も普及を狙うための大衆車とPSXの位置づけをダブらせる。 これは、言い換えればDVD/HDDレコーダーとしての製品戦略をベースにしていることの証ともいえる。DVD/HDDレコーダーとして位置づけた場合、最も価格が安い、普及製品の役割を担うのがPSXということになるからだ。 「PSXというネーミングからPS2の上位機だという誤解を生むのも確かだ。だがソニーからは、PS2の上位機だという表現をしたことは一度もない。当初からDVD/HDDレコーダーを前提として企画したものである。製品企画の途中では、コスト削減効果があるのならばプレイステーション2の機能を取り除こうという議論もあったほどだ」 つまり、あくまでもPS2は付加機能のひとつであるというわけだ。 そして、こうも話す。 「PSXは、DVD/HDDレコーダーとして、最低限必要な機能を搭載したもの。多くのユーザーにとって必要のない機能や、初心者が使ってみて混乱する機能などはすべて排除した。その考え方をベースに、プレイステーション2のゲーム機能を付加しただけ。ビデオ、テレビ、写真、音楽、ゲームという機能から見れば、PS2は、全機能のわずか5分の1でしかない」 確かに、スゴ録やコクーン、次世代のブルーレイレコーダーに比べると、DVD/HDDレコーダーの機能としては劣る部分がある。実は、PSX対策として競合他社も、その点を突こうとする。 松下電器のある関係者は、デジタル放送で主流となっているコピーワンス番組の録画に対応していないことを指摘、「ここがPSXの最大の弱点だと」と、PSX対策の重要ポイントとして訴える考えを示す。 つまり、PSXの場合、CPRMに非対応であるために、コピーワンス番組のDVDへの保存が不可能で、HDDに蓄積したままという状態になってしまうのだ。 また、DVDからHDD方向へのダビングが不可能な点や、最も普及しているDVD-RAMに対応していない点なども、RAMを推進している松下電器の立場から、PSXの弱点だとする。 先頃、松下電器の中村邦夫社長が「PSXはゲーム機だと認識している」という発言をしたのも、こうしたデジタル放送の録画の制限など、DVD/HDDレコーダーとして十分な機能を備えていないと判断したからなのだろう。 一方、RAM陣営からRW陣営へと転換したようにも見える東芝も、PSXの弱点を訴えるための販売店向け資料を作成し、店頭に配布しはじめた。 ここでは、松下電器同様、DVD-RAMの録画再生が不可能なこと、コピーワンス番組の録画の問題、WOWOWデコーダーの接続が不可能である点のほか、チャプターダビングが不可能であること、作成済みDVDコンテンツからの再利用が不可能であること、ライブラリ機能がないことからディスク管理が不便、入出力端子が各1系統だけ−などを問題点として指摘している。 このように競合他社が課題を数多く指摘するPSXは、DVD/HDDレコーダー陣営から見れば、やはりゲーム機の延長線上という製品に見えるのだろう。 ●PSXは使い勝手を追求したベーシックマシン だが、松岡統括課長がいうように、PSXをDVD/HDDレコーダーのベーシックマシンとして位置づければ、どうだろうか。 ある程度、機能を限定した上で、低価格でDVD/HDD環境を提供できるという点では、理にかなった製品といえる。本格的機能が必要であれば、スゴ録などを手に入れればいいというわけだ。 「例えば、松下電器であれば、DIGAシリーズのなかに機能ごとに分類した数多くの製品がラインアップされている。ソニーの場合は、これをひとつのブランドではなく、複数のブランドで用意した形になる。ブルーレイはハイビジョン対応で録画したいユーザー、コクーンは、ユーザーの使い勝手によって成長していく進化型のレコーダー、また、スゴ録はDVDとHDDによる録画を楽しみたいという人、そして、PSXはポストVHSとして、HDD録画とDVDの使い勝手の良さを、初めて利用する人に手軽に体験してもらうために用意した」と語る。4つのブランドでレコーダーの製品群を構成するという考え方だ。 そして、「PSXは使い勝手の良さにこだわった。だからこそ、削った機能もある。私が競合他社の立場だったら、同じような資料を作って、PSXの弱点を訴えるだろう。だが、それを理解した上で、今回の製品は企画している」と反論する。 ●熾烈な競合他社との綱引き しかし、その一方で、発表時点ではDVD/HDDレコーダーとしては安かったPSXの価格も、その後の競合各社の価格引き下げ策によって、PSXが極端に安いという印象はなくなった。PSXの魅力のひとつが薄れたともいえる。 そして、競合他社が、PSXの発売前に向けて、PSX対策に向けた様々な手を打ってくるのは明らかだ。 すでに価格戦略やPSXを意識した販促資料が配付されているのを見ても、それが熾烈になっているも明白だ。 ソニーも、PS2の上位機であるとの誤解を払拭させ、PSXは、DVD/HDDレコーダーのベーシック製品であるとの認識を徹底させることが急務だ。 今年冬の最大の目玉商品に対するソニーと競合各社との綱引きは、これからが見物である。
□関連記事 (2003年11月17日)
[Text by 大河原克行]
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