ソニーが発表した2003年度の連結決算で、今年3月末までのDVDレコーダーの出荷台数が65万台となったことが明らかになった。 この65万台という数値は、PSXとスゴ録をあわせたもの。発売時点では、非公式とはいえ、PSXだけで100万台を目指すことが示されていただけに、この数値は、予想を遙かに下回る結果だったといっていい。ソニーの湯原隆男グループCFOも、「年明けは、当社が想定した数値には届いていない」という点を明らかにしている。 ソニーでは、この内訳については明確には示していないが、ある関係者は、次のように分析する。 「ざっくりいって、3分の2がスゴ録、そして、3分の1がPSXだったのではないか」 つまり、この分析を信じれば、PSXの出荷台数は、20万台から25万台前後だったということになる。 当初の100万台という非公式数字に当てはめれば、これでは、当初計画の4分の1程度の出荷台数に留まったといわざるを得ない。PSX事業の苦戦ぶりは、この点からも明確だ。 ●PSXの生産は中止されたのだろうか?
3月下旬になって、PSXの生産中止に関する記事が一部メディアで報道された。しかし、現時点でも、ソニーはその点に関しては否定している。 筆者自身も、今年1月末時点で、PSXの製造中止に関する情報を入手していた。PSX用のある部品をソニーに納入している業者が、その打ち切りを通告され、その後の当該部品の納入実績がないというのだ。 出荷開始からわずか1カ月半というタイミングでの納入打ち切りは異例ともいえる。もちろん、可能性としては、同様の部品を他の部品メーカーからの調達に振り替えたということも考えられるだろう。マルチベンダー調達は、IT業界では当然の手法だからだ。だが、その納入業者によれば、「この部品は他社からの調達は難しい。他社に振り替えたとは考えにくい」とも話す。 1月末時点で、筆者は一度、ソニーに対して公式にPSX製造中止の事実確認を行なった。その際のコメントは、「製造中止はしていない。しかし、確かに、1月下旬に一度ラインを止めた事実はある。だが、それは生産済みのPSXに対して、ソフトのバージョンアップを施すために、生産そのものを止めたものであり、製造中止とは異なる措置」というものだった。同社では2月上旬に一回目のバージョンアップを実施しているが、この時点で、生産ラインを利用して、すでに生産済みとなっていた2月以降の出荷予定製品に対するバージョンアップを行なったというわけだ。 一部部品の納入停止措置の事実に関しても確認をしたが、この点では、当該部品そのものを明かせば、その部品を納めているメーカーが判別され、自然とニュースソースが判明してしまう危険性があったため、どうしてもオブラートに包んだ確認の方法しかない。結果として、決定的な事実をつかめず、別の裏付け取材が必要だとして、その時点では記事にはしなかった。 この部品メーカーによると、部品の納入規模は約15万台だったという。出荷1カ月半での生産台数が約15万台だったというのは、PSXの発売当初の勢いからいえば、やはり少ない数量だったといえるのではないだろうか。 ●トップシェア維持の鍵はスゴ録か?
だが、一方でこんな見方もできる。 年間トップシェアを獲得している松下電器のDVD関連機器の2003年度の出荷台数は170万台。ソニーがDVDレコーダー市場に本格参入したのが12月だったことを考えれば、実質的には後半4カ月間だけの貢献。単純にこれを年間換算に置き換えるとすれば、65万台×3倍で195万台という計算になる。下期の方が出荷台数が鰻登りになっていることを差し引いても、滑り出しとしては、確かな実績といえるだろう。 そうした意味で、今年度は、昨年末から今年前半にかけてトップシェアを維持したように、年間でのシェア獲得ができるかが今年度の課題となるのは間違いない。 松下電器の年間出荷計画は全世界で510万台。それに対して、国内を主力としているソニーは、200万台の出荷計画。その差を縮められるかどうかの鍵を握るのは、着実に出荷台数を積み上げているスゴ録次第だといえる。 スゴ録の昨年末の売れ行きは、当初のPSXの陰に隠れた薄い印象とは異なり、順調な滑り出しを見せたのは周知の通りだ。 店頭では、PSXよりもスゴ録の方が販売量が多いという販売店が数多く見受けられており、店頭展示でも、いまや隅に追いやられつつあるPSXに比べ、DVDレコーダーコーナーの中心に堂々と展示されているのがスゴ録だ。 松下電器は、昨年末、トップシェアをソニーに奪われたことに対して「他社の安売り攻勢にやられた」と、スゴ録の低価格攻勢が原因だったことを暗に示す。それだけ、スゴ録の価格攻勢は脅威だったともいえる。 事実、ソニーの湯原グループCFOも、「DVDレコーダーは収益には貢献していない」と、薄利で販売していたことを裏付けるコメントを発している。 この低価格戦略が長期的に続くとは考えにくいが、ソニーがトップシェア獲得にこだわれば、商戦期には同様の手を打ってくる可能性もあるだろう。 ●スゴ録開発チーム「Gプロジェクト」の意味とは
年明けから、スゴ録とPSXは、同じ事業部門に統合されたが、製品企画から出荷開始後約半月までは、PSXとはまったく別の事業部門で製品化が進められてきたものだ。 ソニーのある関係者は次のように漏らす。 「製品出荷に至る段階まで、スゴ録とPSXは、なんら整合性をとることなく製品化が進められてきた。注目を集めるPSXに対して、その陰に隠れていたスゴ録は、エレクトロニクス部門の威信をかけて投入した製品だった」 スゴ録チームにとって、エレクトロニクスの主力分野に成長しつつある領域において、ゲーム機部門から投入されたPSXに負けることはできないという気持ちが強く働いていたのは間違いない。 そして、当然のことながら、先行する松下電器への対抗は並々ならぬものだった。 スゴ録の開発チームは、社内では「Gプロジェクト」と名付けられた。 これまで、Gプロジェクトの存在については記事になったことはあるが、Gプロジェクトの意味については、記事化されたことはない。実は、ここに、松下電器に対する並々ならぬ対抗心が込められている。 Gプロジェクトの「G」にはジンギスカンという意味がある。当初、この話を聞いたときには、ジンギスカン鍋でもつつきながら、プロジェクトがスタートしたのかと思った。だが、筆者のそんな適当な推測とは裏腹にここには重い意味が込められていたのだ。 ジンギスカンは、羊の肉を使用する。つまり、ラム肉を食べるのがジンギスカンである。ラムを食う=RAMを食う。ここには、松下、東芝によって市場を席巻しつつあったDVD-RAM(ラム)陣営を、DVD-RW、DVD+RWを搭載したスゴ録でトップシェアを獲得しようという狙いが込められのだ。 結果として、昨年末には、見事にRAMを食うことに成功し、トップシェアへと躍り出たのは周知の通りだ。 ●今年はDIGAとスゴ録の全面対決か?
2004年度のDVD関連製品の出荷計画を見ると、先に触れたように、松下電器とソニーの計画には510万台と200万台というように大きな差がある。 世界同時立ち上げなどの世界戦略を推進する松下電器に対して、この分野では依然として国内向けが主力となっているソニーとの差が出ている構図だ。
それは製品の名称にも差が出ている。松下電器の“DIGA”は、全世界のどの地域でも通用するブランドネーミングを採用した。DVDレコーダーを世界戦略として捉えていることの証ともいえる。しかし、ソニーの“スゴ録”は、その名からもわかるように国内市場を対象とした製品だ。海外向けには別のブランドを創出しなければならない、という問題もある。 一部業界関係者の間では、「ソニーのスゴ緑は、国内を主力としていたかつての松下的な商品名称。そして、松下のDIGAは、欧米を視野に入れた製品展開を行なっていたソニー的なネーミング」と逆転現象を指摘する。 先行した松下電器との差を縮めるには、スゴ録の国内市場への定着とともに、海外戦略をいかに展開するかが鍵となる。それが量産効果にもつながり、価格戦略や製品戦略にも幅を持たせることができるようになるからだ。 松下電器では、「今年は3〜4回程度、新製品を発表したい」として、昨年の2回の発表回数に比べて2倍となる発表を予定し、製品ラインアップをさらに拡充する考えだ。 これまでの製品購入層が、コアユーザー、オピニオンリーダー、映像ファンといった層であったのに対して、これからのターゲットはファミリー、シニア、主婦、ジュニアといった層になると松下電器では分析する。それに向けた製品ラインアップの強化が必須と見ているのだ。 そして前年比3倍という強気の読みにも理由がある。 「過去の家電製品を見ると、ほとんどが10%の普及率に到達した段階で、爆発的な普及期へと突入する。現在、DVDレコーダーの普及率は7%。いよいよ爆発的普及を目前にしている」と、松下電器産業パナソニックマーケティング本部 牛丸俊三本部長は話す。アテネオリンピックに伴う需要拡大もこれを後押しするだろう。 DVDレコーダー市場は、2004年度は、国内だけで前年比約50%増となる350万台に達すると見込まれている。 昨年末は、DIGA対PSXという構図が描かれていたDVDレコーダー市場だが、今年はDIGA対スゴ録という構図が注目すべきポイントだろう。 □関連記事【4月27日】ソニー、2003年度決算は売上横ばい、大幅減益 〜バイオ、サイバーショットは好調、PSXは不振 http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2004/0427/sony.htm 【2003年11月17日】【大河原】PSX発売のXデーはいつか http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/1117/gyokai77.htm (2004年5月14日)
[Text by 大河原克行]
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