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April 08, 2009

論争歓迎

 竹内オサム『本流!マンガ学 マンガ研究ハンドブック』(2009年晃洋書房、2300円+税、amazonbk1)読みました。

 田中秀臣氏のブログで、『マンガ批評界の「派閥争い」が一読明瞭』と書かれて一部で有名になりました。

 じつは本書は「反論」として書かれていまして、単独では理解しづらい本です。少なくとも、著者による『マンガ表現学入門』、夏目房之介『マンガ学への挑戦』、伊藤剛『テヅカイズデッド』、霜月たかなか編『誕生!手塚治虫』に収録されている宮本大人『マンガと乗り物 「新宝島」とそれ以前』などは読んでいたほうがいいでしょう。というくらい、読者を選ぶ本ではあります。

 本書で書かれてることのひとつは、伊藤剛・宮本大人・夏目房之介らによる竹内オサム批判に対する反論。ただし、今回初めて書かれたものではなく、かつて著者が個人誌に発表してきた文章の再録です。

 もひとつは、自分がこれまで書いてきたすばらしい論文、そして他のひとが書いたすばらしい論文が、なぜ専門の研究者にも読まれてないんだようという恨みごと。

 後者についてはまことにごもっともです。ただし他分野でも、先進的な論文に言及されないことはよくあることです。論文がリファレンスされないからといって、文句を言ってもどうしようもありません。著者のような地位のあるかたが地道に啓蒙していってください。

 著者は最近の研究者の、先行する論文に対する不勉強を叱っていますが、そもそも海外文献を視野に入れずに学術的な論文が成立するのか、という基本的な疑問もあります。マンガ(manga、comics、BD)は日本固有のものじゃないのですから、海外でもいろいろと論文が書かれてるのじゃないかしら。

 結局、マンガ研究というまだ成熟していない分野におけるコップの中の嵐、ではあります。マンガ研究の重鎮によるこういう反論本は、「この種の争いは」「醜いかぎり」というわけでもなく、他分野から見ると稚気あふれたものに感じられます。

 竹内オサムも伊藤剛も夏目房之介も、基本的にこっち側のひと。マジメなマンガ研究者で、マンガに対する認識や主張に極端に大きな違いがあるわけではありません。論争は大歓迎ですし、本書を含めてマンガ研究を進歩させるものとして意義あるものと考えます。ゴシップ的に眺めていても、当事者には申し訳ないけど、おもしろいです。

 わたし竹内オサム先生、好きですよ。『戦後マンガ50年史』も『マンガ表現学入門』も『手塚治虫 アーチストになるな』も楽しく読みましたし、別名のおさたけし著の絵物語『マグノリア』も持ってます。私家版の『マンガの批評と研究+資料』『マンガ研究ハンドブック』も図書館で借りて読みました。

 マンガ周辺に生息するアマチュアブロガーであるわたしとしては、むしろ忌避するのはこういう論争とは別のところに生息する、アカデミズムの皮をかぶってマンガ研究に参入しようともくろむもろもろ。こっちのほうがよっぽどたちが悪い。

 竹内一郎、布施英利、吉田正高ら諸氏のことです。

 竹内一郎『手塚治虫=ストーリーマンガの起源』は、論文のかたちを呈していない本()。布施英利は疑似科学でマンガを語ろうとするひと()。

 吉田正高は最近、東大で唐沢俊一とつるんでいるようですが、その単著『二次元美少女論』では「二次元美少女表現の空洞化、さらには二次元美少女の消滅すらも目前に迫っている」と、触手×美少女が減ってきて残念っ、と主張しているだけのオタク()。

 魑魅魍魎はいくらでもわいて出てきます。彼らのようなひとこそ、きちんと批判していきたいと考えています。

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Comments

> 竹内一郎、布施英利、吉田正高ら諸氏のことです。
拍手。

> 基本的にこっち側のひと。
狩無 麻礼/たなか亜希夫「ボーダー」を思い出しました(笑)。

Posted by: かくた | April 09, 2009 at 02:05 AM

>>こっち側
「キリン」でよく出ていた表現ですね。
(バイクに乗る人が「こっち側」)

Posted by: mino | April 10, 2009 at 07:47 AM

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