日本農業の衰退を象徴しているのが、年々増え続ける耕作放棄地。その実態に関して、農林水産省が昨年度実施した初めての全国調査の結果が発表された。現状のままでは耕作に使えない農地は約二十八万四千ヘクタールと推計され、このうち約十三万五千ヘクタールは復元が不可能なことが明らかとなった。
農水省は二〇一一年度をめどに、自治体が定める農業上の重要な区域を中心に耕作放棄地を解消する方針を打ち出しており、本年度予算で約二百億円の交付金を計上して施策を後押しする。今回の調査は、その対象地を選定するためで、農地がない地域などを除く千七百七十七の市区町村や農業委員会を通じて現地調査した。
それによると、草刈りや整地を行えば復旧できるのは八万二千ヘクタール、復旧に大規模な基盤整備が必要なのは六万七千ヘクタールで、合わせて十四万九千ヘクタールは再生が可能だった。
一方、森林や原野と化し、農業利用が著しく困難とされたのが十三万五千ヘクタールに及んだ。耕作放棄地などを除く全国の耕地四百六十三万ヘクタールの3%に匹敵し、琵琶湖の面積の約二倍に相当するというから驚きだ。県別では、鹿児島県が一万一千百ヘクタールで最も多く、次いで長野県の六千六百ヘクタール。三番目に岡山県が入り、六千五百ヘクタールに達した。中山間地の農地が多いことが影響しているようだ。
耕作放棄地が生まれるのは、生産者の高齢化に伴う担い手不足が大きな要因だ。生産規模の縮小や離農が進み、条件の悪い農地を中心に耕作が放棄される。手入れされなければ、荒廃してしまう。
農水省は食料自給率の向上を図るため、耕作放棄地の営農再開を進める方針だが、まず今回の調査結果をしっかり分析することだ。耕作されなくなった理由や周辺環境など、実態を十分把握して、地域の実情に応じたきめ細かい対策を打ち出すことが必要だ。
農地の引き受け手を確保するためには、農地の流動化を促進すべきだ。意欲ある担い手が農地を借りやすくしたり、企業や法人が農業に参入しやすいような制度づくりが求められる。
さらに、農地には防災、水資源確保、環境保全といった多面的な機能があることも忘れてはならない。今は復旧可能でも、放置していると森林・原野化が進んで、再生できなくなる恐れがある。耕作放棄が進まないよう、早急に具体的な手を打たなければならない。
広島市の秋葉忠利市長が、原告の男女七人全員を被爆者の救護活動などで放射線を浴びた「三号被爆者」と認めた広島地裁判決を受け入れ、控訴を断念した。救護被爆者の救済を一気に進めたい。
三号被爆者に認定されると被爆者健康手帳が交付される。広島市は「一日十人以上の救護」などを認定基準とし、原告の手帳交付申請に「基準を満たしていない」と却下していた。
地裁判決は、救護所など被爆者が多数いる場所に一定時間とどまれば「内部被ばくによって発がんなどの身体影響が生じるおそれが高くなることは否定できない」と指摘し、広島市の厳格な認定基準を不当とした。
判決後、秋葉市長は国と協議していく方針を表明していた。控訴断念について「高齢化した被爆者のことを考えれば、いたずらに時間を費やすのは避けるべきと判断した」と説明する。判決を尊重し、被爆者の救済を求める声に応えるのは被爆地広島として当然であろう。
急がなければならないのは、認定基準の緩和である。秋葉市長は「被爆の可能性があれば認める方向にする」と積極認定への切り替えを強調するが、これまで「一日十人以上の救護」などと、人数を認定基準にしてきたことへの反省が何よりも大切だ。原爆が投下された混乱現場での救護人数を、手帳申請者が正確に記憶しているとは到底考えられず、被爆者の切り捨てにつながったといえよう。判決は「合理的根拠があるかどうか十分な精査をしないまま導入し、漫然と採用し続けた」と厳しく批判した。
救護被爆者認定をめぐる司法の判断は広島地裁が初めてだった。広島市の認定基準緩和が進めば、他の自治体の認定作業にも大きな影響を与えよう。
(2009年4月9日掲載)