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勧誘され保険に入ったのに、いざ支払いになって「あなたは詐欺だから払えない」と言われたら、お客はさぞびっくりしただろう。
明治安田生命が「不適切な募集」を認め、金融庁は業務停止命令を出す、という。
生命保険は加入する時、病歴や健康状態を告知する。きちんとしないと「告知義務違反」で解約させられたり、悪質だと「詐欺無効」とされ、払い込んだ保険料を没収される。
ところが、社内に厳しいルールがあっても保険を売っているのは外務員と呼ばれる契約社員だ。「保険のオバさん」は日本独特で、世界最強の販売網とも言われた。戦争で夫を失った女性を積極的に採用したことが始まりと言われ、社長の給料の何倍も稼ぐ腕利きがいる。その陰で親類縁者の人脈を使い果たしてやめて行く人が後を絶たない。
「オバさんの尻をたたいて数字を上げるのが出世コース」と言われる営業の現場では「堅いことをいってたら保険は取れない」という声もある。
そんな日本型営業は曲がり角に立っている。オバさん営業はコストがかかり日本の保険は割高だ。自由化で乗り込んできた外資は安く品ぞろえ豊富な保険を売って伸びている。
合併前の明治生命は02年から保険金の支払いを厳格にした。コストカットである。疑わしき契約はびしびし詐欺無効とした。
病歴を隠して契約する人が増えれば、保険の支払いが増え、やがて保険料を押し上げ、正直に申告している人が損する、と考えた。この判断は間違っていない。
だったら「甘い募集」をやめるのが筋道だが、明治生命は支払いだけ厳しくした。病歴があっても「内証にしときましょ」と言われ、月々ウン万円の保険料を払い続けたのに、お父さんが死んだら、厳しい調査が入って、保険金はおりないばかりか掛け金は没収。トラブルが多発した。
金子亮太郎社長は「情報が上がってこなかった。組織ぐるみではない」と釈明するが、情報が上がらない会社にしたのは誰なのか。
収入を稼ぐ営業部隊には思いっきり売らせ、支出を司る査定部門は厳しく絞る。儲かるやり方だが、これって詐欺じゃない?
(編集委員 山田厚史)
(03/11)
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