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社説:白川日銀1年 試練の本番はこれから

 日銀が白川体制となり1年たった。首脳人事がねじれ国会でもみくちゃにされ、総裁ポストが一時空席となる異常事態の末に登板した白川方明(まさあき)総裁である。当初、指導力を不安がる声もあったが、米国発の金融危機が一気に世界へと波及する中で、利下げや企業の資金繰り支援など、中央銀行として必要な手を次々と打ってきた。

 白川色が最も表れたのは、総裁就任後2度目の利下げとなった昨年12月の政策決定だろう。米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)がゼロ金利を容認したのに対し、日銀は年0・1%で踏みとどまり、ゼロ金利回避にこだわった。金利をゼロにした結果、短期金融市場が事実上崩壊した過去の苦い経験を踏まえたものだ。

 市場などからの評価も得ながら乗り切った1年ではあるが、日本経済は回復への道筋がまだ見えない。日銀にとっての試練はむしろこれからが本番になろう。

 政府による大規模な景気刺激策の結果、日本だけでなく主要国の財政はどこも急速に悪化している。今後、中央銀行に国債をどんどん買い取らせようとする政治圧力が強まる懸念がある。国債が市場でだぶつけば、長期金利が急騰して景気回復の足かせとなりかねないが、安易に買い取りを増やすと、将来、インフレや通貨価値の下落を招きかねない。難しい選択を迫られる。

 英国の中央銀行であるイングランド銀行のキング総裁が最近、追加財政出動に慎重であるべきだと英政府にくぎを刺したのは、そうした事態を見越してのことなのだろう。景気対策がバラマキとならないよう政府としっかり対話をするのも中央銀行の仕事である。

 緊急時の政策から平時態勢に戻すタイミングも極めて難しくなる。まだその段階でないが、出口戦略は用意しておかねばならない。超低金利から脱するのが遅れると、また新たなバブルの種をまくことになる。これだけ異例な金融政策を、しかも世界で一斉に採用しているだけに、転換の判断は極めて重大だ。

 金融危機の再発防止をめぐる国際論議でも、日銀には積極的な貢献を期待したい。

 中央銀行の独立性を支えるのは国民や市場からの信頼だ。政治の圧力に屈していると映るようでは信頼は得られないが、独立性を守ることにとらわれて孤立してもいけない。政治にも大事な役目がある。中央銀行が介入を受けることなく、国全体にとって最良の政策を決められる環境を作ることだ。金利決定などを行う政策委員会の9人中、1人が欠員のままという不完全状態を放置しているようでは不合格である。

毎日新聞 2009年4月9日 東京朝刊

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