厚生労働省研究班は、新型インフルエンザの発生に備えて国が備蓄しているプレパンデミック(大流行前)ワクチンについて、一定の効果が期待できるなどとする臨床研究結果を発表した。同省は大規模な事前接種を行うかどうか、今秋までに結論を出す方針だ。
大流行前ワクチンは、新型インフルエンザに変異する可能性が高いとされる鳥インフルエンザウイルス(H5N1型)から製造した。日本では三種類、約三千万人分が備蓄されている。研究班は、その効果と安全性を確かめるため、昨夏から中国またはインドネシアで採取された二種類のウイルスを基にしたワクチンを約三千人ずつに接種、調査してきた。
その結果、今回初めて接種を受けた人では、効果は同じ種類のウイルスに限定された。これに対し、以前にベトナムで得たウイルスによるワクチンの接種を治験で受けた二百十人については、比較的短期間に免疫力の指標である抗体価が上がった上、別の種類のウイルスにも効果が望めるという。安全性についても「大きな問題はない」との見解を示した。
新型インフルエンザに効果的なのは新型ウイルスを用いた大流行ワクチンだが、発生しないと製造できず、全国民分を製造するには発生から一年半を要するとされる。そこで、抗インフルエンザ薬とともに「つなぎ役」を担うのが、大流行前ワクチンというわけだ。
一定の有効性が確認されたことは明るい材料だ。以前に接種した人への追加接種で効果が高まったことは、ワクチンと新型インフルエンザウイルスの遺伝子の型が近ければ、発生前に接種し、発生後に別の種類のワクチンを接種することで重症化を抑えることも期待できよう。
とはいえ、あくまでも限定的な成果にすぎない。H5N1型以外のウイルスが新型に変異したらお手上げだ。事前接種のリスクを懸念する声も多い。厚労省は、今後、医師や社会機能の維持に必要な人を対象にした大規模な事前接種の可否を検討する予定だが、副作用の状況などより詳しく検討を加え、慎重に見極める必要があろう。
新型インフルエンザ対策には、ワクチンや抗インフルエンザ薬の研究とともに、被害を拡大させない社会的な総合力が問われる。行政や企業など各方面の取り組みも進みつつあるが、温度差は否めない。一人一人が知識や関心を高め、未知の脅威へ備えを強めたい。
岡山県内のほとんどの地域でソメイヨシノが満開になっている。岡山市の後楽園東側旭川河川敷で開かれていたさくらカーニバルは終了したが、桜を守る募金活動に今年も浄財が寄せられ、恒例のボランティア清掃も行われた。にぎやかな花見の一方で忘れてならないのは、こうした地道な地域活動だ。
県内屈指の名所となった後楽園東側の旭川堤防に桜並木が誕生したのは、一九五七年四月九日。水害に備えた堤防整備の記念に町内会が発案し、延長一・二キロの堤防上にソメイヨシノの苗木約百五十本を植えた。
桜を守り、育てたのは住民だった。苗木に水や肥料をやり、虫を駆除した。二〇〇七年には老いた樹木を治療するため樹木医がボランティアで立ち上がり、地元財界や住民による治療と募金の組織もできた。
県北の新庄村では、村のシンボル・がいせん桜を守るため九一年から募金を行っている。今年は県林業試験場で育てたクローン苗を後継樹として初めて植樹した。また県南の児島湖周辺では、新たな名所づくりにと数千本規模の桜を植え、育てる計画が住民参加で進んでいる。
樹木は長い年月をかけてゆっくりと育つ。その成長に寄り添い、老いた木に治療やケアを施すことは、次の世代や地域の未来を考えることでもあるだろう。多くの人々にやすらぎと癒やしの恩恵をもたらす樹木を住民、市民が守り、育てる活動をさらに深めていきたい。
行政も無関心ではいられまい。例えば旭川堤防のように、河川区域内にある桜堤は寿命がくれば根も枯れて土中にすき間ができ、治水上の懸念が生じる。桜の未来を地域とともに協議する場も必要だろう。みんなが楽しむ「地域の宝」を官民で支える仕組みが必要だ。
(2009年4月8日掲載)