北朝鮮の発射した長距離弾道ミサイルには、北朝鮮が主張する人工衛星が本当に搭載されていたのか--。各種データや7日公開された映像などから日米両国を中心に分析が進められている。人工衛星が軌道上にないことは確認されているが、発射目的が衛星打ち上げか、それともミサイル実験だったのかを断定できる証拠は今のところ見つかっていない。落下した飛翔(ひしょう)体の残骸(ざんがい)を引き揚げない限り、衛星が搭載されていたかどうか、水掛け論が続く可能性もある。
日本の宇宙分野の専門家からは、人工衛星を打ち上げようとして失敗したとの見方が出ている。永田晴紀・北海道大大学院教授(宇宙推進工学)は「地球を一周できる人工衛星を打ち上げることは、目標地点に落とすミサイル開発より難しい。衛星打ち上げに成功すれば、ミサイル技術も得ることができる。平和利用と言いながら世界を恫喝(どうかつ)できる人工衛星だったと考えられる」と話す。
北朝鮮の技術力については「今回の打ち上げは安定して発射しており、垂直方向に飛ばす技術はかなり成熟していることがうかがえる。だが、報道からは3段目の切り離しに失敗したとみられる。(衛星を軌道に乗せるため)秒速約10キロの状態で行われる切り離し技術は未熟のようだ」と推測する。
また、別の専門家は「ミサイルには、落下時に大気との摩擦で高温になる弾頭部を守る大気圏再突入技術が必要だ。北朝鮮にはそこまでの技術力はないだろう」と分析する。
では、飛翔体の軌跡を分析することで、人工衛星打ち上げかミサイルかの区別がつくのだろうか。
永田教授は、「3段目の切り離し後、さらに上昇、加速していれば人工衛星打ち上げの可能性が高い。だが、その前に失敗しており、おそらく判断できないだろう」と説明する。
的川泰宣・宇宙航空研究開発機構名誉教授も「これまでに公表された飛行状況や映像からは判別できない。最終的には搭載物を確認するしか方法はないと思う。しかし、落下地点を割り出して回収するのは難しいのではないか」と話している。【関東晋慈、西川拓】
米国では「大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験」(ブレア国家情報長官)との見方が大勢だが、搭載物については意見が分かれる。イージス艦のレーダー情報は航跡に限られ、搭載物を見極められないためだ。
人工衛星説は、発射数日前の米スパイ衛星などの画像から先端部に兵器用の弾頭とは異なり、人工衛星のような「球体状」の物体が搭載されていることが判明したのが発端。発射後、ビクター・チャ前米国家安全保障会議(NSC)アジア部長もCNNテレビで「人工衛星を軌道に乗せようとした」との見方を示した。
しかし、「テポドン2号ミサイルの発射」と発表した米北方軍は、先端部について「物体」「搭載物」とし、人工衛星の表現は避けている。現段階では「人工衛星か弾頭かは分からない」(国務省当局者)のが実態だ。
国防総省関係者は「搭載物があるのは確かだが、(人工衛星の)ダミー(偽物)という話もある」と指摘する。仮にダミーでも一定の重量の物体を搭載したミサイルを発射することで、推進や射程などの性能を評価できる。
ダニエル・スナイダー米スタンフォード大アジア太平洋研究所副所長は人工衛星かどうかの見解の違いは「本質ではない」と指摘。「(小型の)核弾頭化を目指す北朝鮮のミサイル計画は、核兵器計画のない日本の人工衛星打ち上げとは違う」と述べ、搭載物が何であれ、将来の核弾頭化に向けた発射実験との見方を示した。【ワシントン及川正也】
北朝鮮の発射物について、防衛省はイージス艦などの航跡情報を分析中で、結果を来週にも公表する方針だ。弾道ミサイルと証明できれば、国連安保理で新決議を求める日本の主張は説得力を増す。
「秋田沖の落下物を回収して実態を解明すべきだ」。7日の参院外交防衛委員会で、野党議員に迫られた浜田靖一防衛相は当初の「回収しない」との発言を撤回し、「可能かどうか検討したい」と言い直した。野党だけでなく、政府・与党の一部にもある回収論者に背中を押されたためだ。
ただ、真に重要なのは、太平洋に落下した2段目のロケットと弾頭の方だ。秋田沖に落下した1段目の推進装置を回収できたとしても決め手にはならない。1段目回収論は「少しでもミサイル断定につながれば」という希望にすぎない。また肝心の弾頭部分についても、「2段目以降は原形をとどめていない」(カートライト米統合参謀本部副議長)との見方があり、北朝鮮の主張を突き崩せるかは不透明だ。【松尾良】
毎日新聞 2009年4月8日 22時28分(最終更新 4月9日 1時27分)