経済危機で打撃を受けている産業の代表が自動車だ。中でも米国の自動車メーカーの行方が注目されているが、米政府が示したのは期限付きの対処策だった。
当面のつなぎ資金は供給するものの、抜本的な経営改善策が整わない場合は、連邦破産法の適用もやむなしという内容だ。先月末に設定された猶予期限はGM(ゼネラル・モーターズ)が60日、クライスラーが30日だ。
両社にはすでに巨額の公的資金が注がれている。しかし、3月末を期限として示された再建計画は、不十分なものだった。そんな状態でさらなる資金支援を政府が行えば、納税者はますます不満を募らせるだろう。人気にかげりが出てきたオバマ大統領としても、毅然(きぜん)たる態度を示さざるを得なかったというわけだ。
オバマ大統領自身が破綻(はたん)処理もありうることを強調し、さらにGMのワゴナー会長に退任を求めたのは、そうした政権の強い決意を示そうということだろう。
GMの場合は、債権者と労組の双方が、再生に必要な痛みをどのように分かち合うかで合意が得られておらず、この行方が焦点だ。クライスラーの場合は、イタリアのフィアットとの提携がどうなるかだ。
自動車産業は、部品供給や販売網を含め巨大な雇用を抱えている。GMやクライスラーが法的処理となればイメージダウンは避けられない。しかし、車種を大幅削減してリストラを進め、さらに省エネ車へとシフトすることは、自主再建、法的処理による再生のいずれをたどっても不可欠だ。
それには巨額の資金が必要で、これは米国に限った話ではない。
省エネ車への買い替え補助も含め、温室効果ガスの排出抑制を理由に、各国政府が自動車産業への支援を打ち出しているのはそのためだ。しかし、こうした支援策は保護主義の拡大と裏腹の関係にある。
たとえば、政府が自動車の購入費を補助するにしても、自国のメーカーの車だけに適用するというのは、高関税を設定して外国車を自国市場から排除するのと同じことになる。
自動車産業に政府が支援を行うとしても、自由貿易の前提である自由無差別の原則は厳守すべきだ。購入費補助だけでなく、自動車メーカーへの政府の資金支援についても、この視点は欠かせない。
省エネ車の開発を名目に政府が資金を支出したとしても、車両を安値で輸出するための補助金となるケースもありうる。
各国がとる自動車産業への支援策が、保護主義につながらないよう、改めて注意を喚起しておきたい。
毎日新聞 2009年4月8日 東京朝刊