新型インフルエンザウイルスが出現してからワクチンを作るには、早くても半年かかる。国民全員分を作るには1年半かかるといわれる。新型が流行した場合、とても間に合うとは思えない。
そこで、「つなぎ」として鳥のウイルスからプレパンデミック(大流行前)ワクチンを作り、備蓄しておこうというのが日本の政策だ。
ただ、「いつ」「どのように」打つのかは、具体的に決まっていない。それを考える上で重要な臨床研究の結果を厚生労働省の研究班がまとめた。新型が出現する前にプレパンデミックワクチンを事前接種しておくことの効果が期待できる内容だ。一方で、事前接種には反対意見を唱える人もいる。
国は、この結果をもとに専門家の幅広い議論を聞いた上で、有効な接種方針を立てなくてはならない。
プレパンデミックワクチンは、鳥の間で流行し、一部の人間にも感染している「H5N1」型のウイルスをもとに作られている。この型が新型に変化する恐れが強いと見られてきたからだ。
H5N1の間でも遺伝子の違いがあり、日本はベトナム、インドネシア、中国で分離されたウイルスをもとに3000万人分のワクチンを作り、備蓄している。今回の研究結果は、ベトナム株のワクチンを事前に打った人は、同じ株だけでなく、別の株に感染しても重症化を防げる可能性を示している。
ただ、新型がH5N1から出現するとは限らない。別の型の可能性が高いとの見方もある。そうなった場合、今のプレパンデミックワクチンには期待できないが、それでも接種した方がいいか、意見が分かれる。
副作用のとらえ方も人によって違いがある。今回、5561人を対象とした安全性試験で8人が入院し、うち2人はワクチン接種との因果関係が認められた。新型のリスクに備えるワクチンとして、1000万人規模で接種した場合に許容範囲かどうか、判断材料はもっとほしい。
事前接種するとなった場合、誰を対象とするかも難しい課題だ。政府の案では、医療従事者や社会機能の維持にかかわる業種を優先順位で分類している。いずれにせよ、希望者全員にワクチンが行き渡るわけではない。国民の納得を得るには、透明性のある議論が欠かせない。
プレパンデミックワクチンの事前接種を打ち出した国はまだない。世界保健機関(WHO)は、各国のデータを検討しており、国際的な情報も参考にしたい。ワクチン以外の対策もあわせ、新型インフルエンザに総合的に備えることが重要なことはいうまでもない。
毎日新聞 2009年4月8日 東京朝刊