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イスラエルに右派政党が主導する新しい連立政権が誕生した。新首相になったネタニヤフ氏は、パレスチナとの和平問題で強硬路線をとるタカ派だ。外相には極右政党の党首がついた。中東情勢の今後が心配だ。
右派政党リクードを率いる新首相は、中東和平交渉の前提であるパレスチナ国家の樹立に一言も触れようとしない。前回、96〜99年に首相をつとめた際は、ユダヤ人入植地を大幅に拡大し、パレスチナ側との関係を険悪にした過去を持つ。
新外相のリーベルマン氏は、国内のアラブ系住民、つまりパレスチナ人の排斥を公言する。
いかにも世界の流れに逆行しているという印象を禁じ得ない。オバマ米大統領がイランに対話を呼びかけ、イラクからの米軍撤退に動いている。この地域に国際協調の風が吹き出そうという矢先のことである。
オバマ大統領はトルコ議会での演説で、イスラエルとパレスチナの「2国家共存」を支持するとはっきり述べた。米国の中東外交にとって、悩みの種になるのは間違いなさそうだ。
右派政権誕生の背景には、安全に対するイスラエル国民の不安がある。武闘路線を掲げるイスラム過激派ハマスはパレスチナ側で相変わらずの勢力を保ち、イスラエルを敵視するイランは核やミサイルの開発にいそしむ。
イスラエル側の不安を度外視して、この地域の安定が展望できないことは確かだ。だが、かといって昨年末からのガザ侵攻のように、新政権がさらに強硬な、過剰な安全確保策に走るのはとうてい許されない。
すでに傷ついた中東和平交渉には致命的だろうし、地域全体が不安定化し、世界に混乱が広がりかねない。
新政権はまず、入植地拡大や聖地エルサレムでの一方的な行動で危機を生み出すのは慎むべきだ。
右派政党の勢力が伸びた2月の総選挙は、ガザ侵攻の直後、国民の間に戦時下の緊張した空気が色濃く残る中で行われた。その揺り戻しなのか、政権発足直後の世論調査では、新政権に「満足」は3分の1以下、「満足していない」が半数を超えた。特に新外相への支持は4分の1という低さだ。
世論が落ち着きを取り戻す兆しだとすれば、そこに期待したい。同時に、米国や欧州、アラブ諸国、そして日本などの国際社会の役割も大きい。イスラエルを囲む国際環境を和らげるとともに、新政権を説得して和平路線に戻らせる努力を強めなければならない。
それには、曲がりなりにも民主的な選挙で多数派となったハマスを何らかの形で認知することだ。イスラエル、パレスチナ双方で、強硬派が選挙民の支持を得ている。この現実を見据えることから出発するしかあるまい。
鳩山総務相が日本郵政グループによる「かんぽの宿」売却に「待った」をかけ、白紙に戻したのは2カ月前だ。それは次のような疑問からだった。
「売却先をオリックス不動産としたのは『出来レース』ではないか」
「売却価格が安すぎないか」
もし入札に出来レース、つまり不正行為があったなら、日本郵政の経営陣が法的に問われかねない話だ。総務省はその調査結果を先週末に発表し、日本郵政に業務改善命令を出した。
しかし、そこであげられた16の問題点は、「収益改善に努めたあとで売れば、より高い売却額になった可能性がある」など、どれも改善が望ましい点や手続き上のミスにとどまった。意図的で悪質な「不正」と呼べるような事実は見いだせない。
「安すぎる」に関しては、総務省は独自に不動産鑑定をし、売却対象となった79施設は推計「約250億円」になる、ときのう発表した。
鳩山総務相の疑義はもともと、施設の購入・建設に2400億円かかったものを「109億円」では安すぎる、というものだった。だが、実際には建設時の10分の1に下がっていたと、総務省みずから認めたことになる。
かんぽの宿は毎年40億〜50億円の赤字が出ている不採算ビジネスだ。事業を続け正規・非正規従業員3200人の雇用も続けるのが条件なら、買う方の企業は「もっと安くなければ」と考えるだろう。109億円になったとしても不自然とは言い切れまい。
かんぽの宿の本質は、旧郵政省が簡易保険事業の名のもと、採算そっちのけで巨費を投じた「国営ホテル事業」の失敗だ。その売却は「国民の財産の切り売り」というより、むしろ「破綻(はたん)処理」の作業に近い。こうした潜在的な不良債権を抱えた事業を、国民負担が膨らむ前に政府から切り離すのが、郵政民営化の目標の一つだった。
国会論議では、野党も「国民財産のたたき売り」と総務相に歩調を合わせた。たしかに個別に見れば、もっと高く売れた施設があっただろう。透明で、国民や自治体の納得が得られる売却手続きをとることも大切だ。
ただ、売却が先に延びるほど赤字が累積し、国民負担が膨らむことも考えておく必要がある。総務省と日本郵政は今回の反省を踏まえつつ、早期売却へ向けて出直すべきだ。
このように、調査結果も考慮して一連の鳩山総務相の指摘・指示を振り返ると、何が何でも「白紙撤回」を急いだことには、やはり疑問がある。
かつて自民党の強力な集票マシンだった特定郵便局長会に期待して、今も民営化反対の動きが与野党にある。この騒動には、政治のにおいがつきまとう。それが民営化会社の経営をゆがめたとしたら、代償は小さくない。