「日韓併合」「金日成生誕」──2つの100周年で朝鮮半島は激震する=黒田勝弘
2009年2月10日 SAPIO
日韓併合の歴史認識に 「NHKと日本政府」陰謀説
韓国に「東北アジア歴史財団」というのがある。盧武鉉前政権時代に国家予算で誕生した準政府機関で、日本や中国との歴史紛争に対応し、広く韓国の立場を内外に宣伝する組織だ。財団の理事長は金容徳・前ソウル大教授で、彼はソウル大に「日本学研究所」を開設したことなどを評価され、日本から「国際交流基金賞」を贈られている。しかし財団理事長としては、慰安婦問題、竹島問題、日本海名称問題など、日本糾弾事業が目立つ。
その財団の最近の内部資料に「韓日併合100周年に備えた財団の対応策」というのがあって、こんな意味のことが書かれているという。
「日本のNHKが(日本)政府の支援で日本の学界と連携し"2010年・日韓併合100周年特集"を企画し、韓日併合の意味などを韓国の学者たちに問い合わせるなど準備を進めており、(韓国としても)多様な対応策を検討しなければならない」
この件を紹介した東亜日報(2008年10月29日)は「NHK、日本政府支援で"韓日強制合邦100周年特集"準備」という見出しになっている。NHKが政府の支援で企画をやるはずはないだろう。韓国では政府が国家予算を使って自分たちの歴史認識を内外にPRしているので、日本もそうだろうという韓国マスコミのいつもの意図的(?)勘違いだ。
東亜日報はさらにこう伝えている。 「相当数の日本の学者たちが強制合邦の不法性を否認してきており、最近の日本の右傾化の流れにしたがって強制合邦の合法性を主張する日本の学界の動きも強化されるという憂慮がある。このため国内の学界は、韓日強制合邦の不当性を世界に知らせる学問的論理の構築に、もっと力を傾けなければならないという指摘が出ている」
「財団は2009年に"国権侵奪100周年記念国際学術会議"を開き、韓日強制合邦が国際法的にも不当だったことを知らせた後、2010年には平和をテーマに新しい韓日関係を提示する計画だ」
ちなみに、日本の朝鮮半島支配・統治につながった1910年の日韓併合条約については、韓国側では「強制」を強調し、不法、無効を主張してきた。しかし条約には当時の韓国政府が署名しており、国際的には昔も今も合法論が支配的だ。
現在の観点での道義論や政治論ではともかく、学問的には韓国は分が悪い。
そのせいか、韓国の国定歴史教科書『国史』(高校)では「日帝は全国的な義兵の抵抗を武力で鎮圧し司法権と警察権を奪った後、ついに大韓帝国の国権まで強奪した(1910)」とわずか2行書かれているだけだ。条約締結や「併合」あるいは「合邦」などはどこにも出ていないのだ。
だから韓国にとって1910年はいやな記憶で、ことさら記念したいとも思っていないのだが、2010年がそれから100周年にあたるといって、どういうわけか日本側から「2010年問題」をいう声が出ているのだ。
NHKの企画準備は事実である。寝た子を起こすのか?「均衡取れた歴史認識」に向けた企画そのものは結構として、どうか慰安婦問題のような反日偏向報道にならないよう祈るばかりだ。
「2010年問題」についてはそのほか、近年、韓国で引っ張りだこの東大名誉教授の和田春樹先生なども、ソウルでのセミナーで「2010年日韓歴史清算論」を主張している。そして「日本は竹島を韓国に譲るべき」と提案し、韓国側を喜ばせている。
2010年に向け、また、いや依然としてといおうか、歴史問題などという昔話ではいささか気が重くなるが。
韓国では「過去問題」が大好きだった頭でっかちの反日左派政権の盧武鉉時代が去り、保守・実用主義の李明博政権が今年、2年目を迎える。
李政権は昨年のスタート直後、想定外の米国産牛肉輸入問題で旧政権派の左翼反米勢力の反政府デモに揺さぶられ、出鼻をくじかれた。しかしその後、あの牛肉・反政府デモはテレビの反米虚偽報道による扇動だったと分かり、テレビ界は粛清が進み、各界で左派勢力の追放に拍車がかかっている。
今や韓国は米国牛肉の最大輸入国で、輸入牛肉消費は大いに盛り上がっている。何か月にもわたって政権を揺さぶり、国を揺さぶったあの「反米牛肉ロウソク・デモ」がウソのようだ。あれは政権交代期の"通過儀礼"だったか。
政治的に旧政権派の反政府勢力を抑え込んだところで、これも想定外にやってきたのが「経済危機」だ。李政権には得意のはずの「経済」だが、これは韓国だけで片付く問題ではない。長期化は必至だ。
しかし国際的な経済危機がからんだこの「思わぬ不幸」は、逆に国民団結にはもってこいだ。新年の経済展望を「ほぼゼロ成長」と予測する向きもある。韓国はこれから「国民みんなが力を合わせ我慢、努力して危機克服を!」となるだろう。韓国は反米牛肉デモでも明らかなように、キャンペーンの効きやすい社会だ。
そして国際的な経済危機の中での韓国経済の危機だけに、国際協調は不可欠だ。李政権はすでに外貨確保策として、日本などとの協力体制強化に奔走している。「経済」と「国際協調」という韓国の生存を賭けた現在・未来重視のトレンドの中で、100年前の日韓併合などという「2010年問題」は影が薄い。
日韓関係には昔から「韓国が困れば日韓関係はよくなる」という皮肉の声が聞かれる。韓国の不幸、世界の不幸の中で、日韓関係はすでにその流れにある。
アメとムチのあらゆる対策を
朝鮮半島情勢を左右する一方の北朝鮮はどうか。こちらは2010年ではなく、実は「2012年問題」に向け大きな転換期に入りつつある。2012年とは、世襲独裁者・金正日の年齢が満70歳になる年であり、創業者の父・金日成の生誕100周年の年だからだ。北朝鮮はこうした節目の年を大いに好む。そして国民動員つまり人民統制・忠誠確保に大いに利用する。 北朝鮮にとって「2012年問題」の核心は権力後継だ。金正日は誰を後継者にするのか。そしてポスト金正日にどういう体制を残そうとするのか。金正日重病説を背景に、これから準備が始まる。
金正日の"病状"はいかにも怪しい。北朝鮮当局は内外に健在ぶりを印象付けようと躍起になって写真を発表している。多くの写真は明らかに合成だが、本当に元気ならそんなにムキにならなくてもいいではないか。
と同時に北朝鮮当局は、そうした"金正日秘密情報を満載した韓国からの宣伝ビラに異常に神経をとがらせ韓国を非難している。"将軍さま"に対する人民の忠誠心が確固としているなら、南から風船が運んでくる宣伝ビラなど昔からあったことだから、気にすることはないではないか。
北朝鮮では今、金正日病気説とあいまって明らかに民心の動揺や、場合によっては権力に対する民心離脱が起きているのだ。
北朝鮮は最近、金剛山観光や開城観光の中断、開城工業団地への出入り制限をはじめ、韓国との対話・交流を中止、制限するなど対外強硬政策が目立つ。
北朝鮮ウォッチャーの間では「北が対外強硬策に出る時は内部の問題がある時」というのは常識だ。対内危機には内部引き締めのため必ず危機感をあおる。
"将軍さま"はポスト金正日という「2012年問題」において、北朝鮮をどこにもっていこうとするのだろうか。これまで通りの閉鎖的で極端な独裁体制の維持、継続だろうか、それとも中国モデルを念頭においた改革・開放だろうか。
後継体制がスタートするだろう2012年に向けた時間は、北朝鮮の"変化"を期待する国際社会にとっては大きなチャンスだ。アメとムチを含むあらゆる圧力を駆使しなければならない。脳や心臓など循環器系の持病はいつ発病するかわからない。"急変"への備えの必要性はいつになく高まってきた。(産経新聞ソウル支局長)
※各媒体に掲載された記事を原文のまま掲載しています。
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