「核兵器のない世界」を目指すと公約するオバマ米大統領が具体化へ向け大きく踏み出した。チェコの首都プラハで演説した大統領は、核廃絶と核の脅威に立ち向かう包括的な核構想を初めて明らかにした。
大統領は「核兵器を使用した唯一の核保有国として行動する道義的な責任がある」と言明した上で「米国は核兵器なき世界の平和と安全保障を追求することを宣言する」と表明した。核軍縮に向け一致した取り組みを始めることで合意した先の米ロ首脳会談に続く力強いメッセージの発信といえよう。
包括構想の狙いは、核兵器の拡散防止にある。まず米ロが戦略核をさらに削減する新条約を今年末までに策定し、これをてこに大胆な核軍縮を進める。核超大国の米ロが協調して模範を示すことで、北朝鮮やイランに対する核放棄の圧力を一層強めたい戦略なのだろう。
演説の日に北朝鮮が長距離弾道ミサイルを発射し、新構想に冷水を浴びせた。北朝鮮の核・ミサイル開発を封じ込めるためにも、核廃絶の動きを進めねばなるまい。
構想で注目されるのは、ブッシュ前政権が反対姿勢を見せていた包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准にまい進すると表明したことだ。発効には四十四カ国の批准が必要だが、中国、北朝鮮、インド、パキスタンなど九カ国が批准していない。米議会への説得も課題だが、米国が率先して批准に動けば大きな弾みとなろう。
北朝鮮やイランの核開発に加え、テロ組織の核入手の懸念も現実味を帯び、核の脅威は冷戦時代よりも高まっている。このため、核兵器原料の生産を禁止する「兵器用核分裂物質生産禁止(カットオフ)条約」の交渉開始を目指すとしたほか、管理のずさんな核物質の安全性を四年以内に確保すると公約。米政府が核テロ防止策を探る「世界核安全サミット」を一年以内に主催する意向も表明した。
また、形骸(けいがい)化が指摘される核拡散防止条約(NPT)を強化するため、国際原子力機関(IAEA)の査察権限強化やNPT違反に対する罰則導入なども提案した。
核廃絶実現までの道のりは遠く険しかろうが、最大の核大国の指導者が「変革」へかじを切った意義は大きい。構想の具体化に向け国際社会の一層の協調が求められよう。唯一の被爆国であり、北朝鮮の脅威にさらされる日本も、オバマ構想を全面的に後押しすべきである。
北朝鮮が「人工衛星」打ち上げを目的として長距離弾道ミサイルを発射したことを受け、日本の要請で開かれた国連安全保障理事会の緊急会合は、日米と中国、ロシアなどとの立場の違いが、あらためて浮き彫りになった。
日米両国は、ミサイル発射は二〇〇六年の北朝鮮の核実験後に採択された安保理決議一七一八の「明確な違反」とし、新たな決議の採択が必要と主張した。これに対して、拒否権を持つ中国、ロシアなどに「決議違反かどうか精査すべきだ」との慎重意見が強く、初日の決議案提示は見送られた。
決議一七一八は、北朝鮮に弾道ミサイルの発射や関連技術の開発禁止を求めたうえで、核・ミサイル・大量破壊兵器関連物資、ぜいたく品の北朝鮮への輸出禁止などを加盟国に義務付けている。日米は制裁の実効性強化を柱にした新決議案の提示を準備しており、英国、フランスも同調している。
緊急会合では非常任理事国のリビア、ベトナムが「人工衛星打ち上げなら決議違反にはあたらない可能性もある」との見解を示した。北朝鮮に対する決議をめぐっては、これまでにも日本と中国で紛糾した経緯があり、今回も日米の決議案が提示されれば、議論がもつれる可能性があるだろう。
ただ、各理事国は「事態は深刻」という一定の懸念を共有しており、今後の協議での合意に望みをつなぎたい。安保理が北朝鮮に対して一枚岩になれず、何もアピールできなければ、それこそ北朝鮮の思うつぼになってしまうのではないか。
日本政府は米国、韓国と緊密に連携を図り、中国、ロシアを説得してもらいたい。安保理として一致結束した姿勢を示すことが今、求められている。
(2009年4月7日掲載)