2005年12月5日、長野県上田市の丸子実業高校(現丸子修学館高校)の元バレーボール部員・高山裕太くん(当時16歳)が自宅で自殺した。これを受け、母親は「自殺はいじめが原因だった」として、県や高校などを相手取り、損害賠償を求め提訴していた。3月6日、長野地裁(近藤ルミ子裁判長)は判決を言い渡し、母親の請求のほとんどを棄却。ただし、ハンガーで高山くんの頭を叩いた上級生1人には慰謝料1万円の支払いを命じた。一方、バレー部顧問や部員らが母親ら遺族に名誉を毀損されたなどとして慰謝料を求め提訴していた。この訴訟については、30人中23人に対して「私生活上の平穏を違法に侵害した」とし、遺族に約34万円の支払いを命じた。
◎登校復帰を約束した3日後、自殺
登校圧力と自殺は無関係
母親の訴えによると、裕太くんは入学1カ月後から、バレーボール部の上級生にハンガーで殴られる、しゃがれ声をマネされるなどのいじめを受けていた。05年8月30日から裕太くんは1週間ほど家出をするなど、その後はほとんど学校に通わなかった。また部員の親たちが「ハンガーで殴られるぐらいは、たいしたことはない」「うちの子はパイプイスで叩かれた」などと話していることから、いじめ・暴行の常態化も訴えていた。
長野地裁は、上級生がハンガーで殴った行為については認定、慰謝料1万円を命じた。しかし、その後の暴行やいじめについては「教員らが反省文を書かせるなど指導をした」「上級生と裕太くんは仲直りの意味で握手をした」などの状況を考慮し、継続的ないじめ・暴行は認定しなかった。
◎診断があっても自殺予見は不可
母親の訴えによると、裕太くんは家出後、精神的に不安定になり精神科へ通院。9月15日、医師は「学校生活のストレスから家出などの行動があり、発声困難、めまい、腹部不快、顔面痛などの身体状態とともに希死念慮も出現」と診断した。これを受け母親は学校に3度に渡って診断書を送付。しかし、学校は3度に渡り登校を促す通知を送付した。
さらに12月3日には県教委職員、学校教員、高山親子らで4時間にも及ぶ話し合いが持たれ、学校がいじめ対策をとること、裕太くんが登校することが約束された。しかし、登校を約束した12月5日の朝、高山裕太くんは再度、登校を拒否。担任は裕太くんの携帯電話に直接電話をかけ「約束だから登校しなさい」と催促した。その翌日、裕太くんは自宅で首を吊って自殺した。
精神科医・石川憲彦氏は意見書を長野地裁に提出。意見書にて「うつの初期状態で、必要なのは激励ではなく保護と保障。12月3日のような会合で登校の約束をするということは医学的に無謀な事態で死のきっかけとなったとしてもまったく不思議ではない」と述べた。これに対し、長野地裁は「登校を促したことが自殺の危険性を高める行為であったとは言いがたい」と判断。理由については、直接、登校を促すことで裕太くんの孤独感を払拭し、学校への帰属感を意識させるといった効用をもたらす可能性があったことなどをあげた。また希死念慮を指摘した診断書に対しては「このような漠然とした診断によって通常、教育上必要と考えられる措置がとれなくなるとは解されない」と判断した。
母親の代理人・高見澤昭治弁護士は「判決は人権意識に欠け、あまりにも偏った事実認定にもとづく不公平な判断。安心して教育を受けられる教育を実現するためにも、控訴は不可欠」だとし、控訴する予定。長野県は判決について「県の主張が理解いただけたと思っている」と話している。