表示額での残り距離が100メートルを割り、電子音とともに注意を促す新タクシーメーター。「わかりやすい」と乗客に好評とか=3日午後、福岡県内
福岡県のタクシー会社が考え出した割安運賃が頓挫しかけている。運賃認可から専用メーターの承認を得るまで11カ月かかり、先月末に営業を始めたものの、1年限りの運賃認可の有効期限が今月25日に迫ってきたからだ。全国に広がった追随の動きもストップ。地方から上がった業界活性化ののろしが消えようとしている。
新運賃は遠賀タクシー(福岡県遠賀町)が申請し、昨年3月に九州運輸局がハイヤー運賃として認可した。料金の変化が1回ごとに時間か距離で計算され、2キロを超えると周辺のタクシーの運賃よりおおむね割安になり、中長距離の利用者を獲得できると期待されていた。
認可の条件は(1)流しをしない「ハイヤー営業」に限る(2)まったく新しい運賃を間違いなく計算できる新しいメーターの型式承認を受ける――だった。
遠賀タクシーの木原圭介社長は「7月ごろにはメーターの承認を得られる」と考えていた。しかし、承認は2月19日までずれ込んだ。
立ちはだかったのは、経済産業省が権限をもつ「タクシーメーター承認」の壁だ。
新料金のメーターは、その時点の運賃で走れる残り距離や時間を示す。しかし、日本工業規格(JIS)は従来の運賃体系を前提につくられており、経産省側は当初「認められない」と話していた。
交渉を重ね、メーター自体では数字だけを表示し、単位などの内容は運転手が説明することにした。
発車・停止を一つのボタンにまとめようとしたら「別々のボタンが必要」。約40回の折衝の末、申請にこぎつけたのは昨年12月。メーターの承認には10万キロ分の耐久性試験が必要で、2月までかかった。
国交省は、これまでと全く違う計算方法のタクシー運賃が申請された場合、最初は原則として期間を限って認可してきた。(1)新運賃が利用者に必要とされているのか(2)運転手の待遇が悪化しないかを検証するためだ。
九州運輸局は「今回の場合、検証に半年は必要」としてメーターを含めた準備も加味して認可期限を1年にした。
遠賀タクシーは2月27日から新運賃の営業を始めたが、認可期間はあと1カ月。半年間の検証には認可の延長しかないが、国交省は「例外扱いは難しい」(幹部)と、延長しない方針を示唆。3月25日の認可期限とともに事実上打ち切りになる見通しだ。
こんな「本家」の停滞は、後に続く会社に影響した。
北海道旭川市の旭タクシーは昨年3月、北海道運輸局に遠賀タクシー同様の新運賃を申請したが、年末に却下された。人口35万人の旭川市は、ハイヤー営業に適した規模にない、という理由だった。
福島県郡山市の郡山観光交通は昨年7月に申請したが、同業者の反発で8月に取り下げた。日の丸観光タクシー(新潟県三条市)も昨春申請したが、国交省の結論は出ていない。
国交省の審議会は昨年末、タクシー業界活性化には「利用者の選択の幅を広げることが重要」などとする答申をまとめた。木原社長は「新運賃は国の政策にも合っているはず。最終的に新運賃がなくなるとしても、その功罪を検証してからにしてほしい」と訴える。(吉田博紀)
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タクシー運賃 一般の運賃は、走行距離を主対象にして、渋滞時はその時間を距離に換算して加算する「時間併用型距離制」か、観光タクシーなどの「時間制」があり、地域ごとに定められた上限と下限の範囲内では自動認可される。遠賀タクシーの新運賃は「第3の運賃」といえ、2キロを超えるとおおむね割安になり、現行の距離制の5割程度になることもある。