今日も、ギリシャ神話を読んでいた。心に残ったお話を一つ。 ナルキッソスはたいへん美しい青年だった。彼の姿を見ると、どんな娘でも心を動かされずにはいなかった。ところがナルキッソスの方は、どんな美しい少女がいても、見むきもしない。森のニンフの中でもいちばん美しいエコーが、すっかり彼を好きになってしまっても、あとを追いまわしたが、おなじことだった。 ところがエコーは、あんまりナルキッソスのことばかり考えて夢中になっていたため、主人の女神ヘラの気嫌をそこねてしまった。女神が浮気者の夫のゼウスの行方をたずねたとき、ちゃんとした返事もしないで、余計なおしゃべりばかりしたからだ。 女神はとうとう腹をたてていった。「余計なこというんじゃない。おまえは、ひとにいわれたことに返事をすればいいのです。これからは、余計なおしゃべりができないように、相手の言葉の終わりのもんくしか、おまえにはいえないようにしてやる。」 それからというもの、エコーは自由には口がきけなくなってしまった。女神のいったように、ただ相手からいわれたことばの最後の部分をくりかえすだけだった。そんなわけで、ナルキッソスの後をおいかけていっても、話しかけることができない。まして相手の心をひきつけることなど、できるはずがなかった。 それでもある日、またとないチャンスがきた。ナルキッソスが林の中で、 「だれか、そこにいます?」と呼んでいたのだ。 「います―いますよ!」と、エコーは木のかげにかくれて、夢中で返事をした。 するとナルキッソスはいった。 「だれだい?出ておいで。」 エコーもよろこんで、「おいで!」といいながら、木のかげから走り出た。 ところがナルキッソスは、「なあんだ、お前か。お前につかまるくらいなら、ぼくは死んだほうがましだ。」とばかり、くるりと背中をむけてしまった。 エコーは悲しみとはずかしさで、「死んだほうがましだわ―。」と、小さな声でいったきり、さびしい洞穴に身をかくしてしまった。こうして穴の中にとじこもったきり悲しみにしずんでいたため、どんどんからだがやせほそって、とうとう声だけになってしまったといわれる。 (「ギリシャ神話 付 北欧神話」(山室静 教養文庫) 口は災いのもと。でも夢中になっていたら、どうしようもないこともあるのですよね(クスン)。 |
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