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【社説】

オバマ『核』演説 大国の削減が第一歩だ

2009年4月7日

 オバマ米大統領が核軍縮、不拡散の戦略を示し、「米国は核兵器のない世界を目指す」と遠大な理想を掲げた。核戦力を背景に力の外交を展開してきた米国の政策転換に期待し、希望を持ちたい。

 オバマ大統領はチェコのプラハを訪れて市民を前に演説し、「米国は核兵器を使用した唯一の核保有国として行動する道義的な責任がある」と語りかけた。

 続いて「米国の安全保障戦略における核兵器の役割を減らし、他国にも同調するよう求める」と述べた。現職の米大統領として、ここまで明言したのは初めてだ。

 まずロシアとの間で戦略兵器削減の新条約交渉を開始し、年内に策定を目指す。全世界の核兵器の九割以上を保有する両国が削減を主導して、他の保有国にも波及させたいという考えだ。

 包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期批准も約束した。米議会が批准すれば、未批准の中国、署名すらしていないインド、パキスタンに対応を促す効果が期待できる。核拡散防止条約(NPT)体制の強化も提案した。

 オバマ大統領が描く構想の実現は容易ではない。核兵器に関心を持つ国が後を絶たないからで、演説のわずか数時間前に、北朝鮮が核弾頭を搭載できる長距離弾道ミサイルの発射実験をした。二〇〇六年には核実験を強行している。イランは原子力平和利用を主張しながら、ウラン濃縮を続け核兵器開発の疑惑が晴れていない。

 国際社会はテロリストの核兵器入手を恐れており、核物質を安全な管理下に置く国際的な取り決めをつくろうと提案した。

 冷戦崩壊によって核抑止力の意味は大きく変わり、オバマ大統領は核戦略見直しの難しさを正直に語っている。米国は核削減を進めるが、核の脅威が存在する限り、核戦力を持ち続けると表明した。イランの脅威がある限り、ミサイル防衛(MD)計画は推進するとも述べた。「核なき世界」については「私が生きている間には達成できないかもしれない」と、楽観はなかった。

 それでも、「核兵器のない世界を目指す」との表現は決して軽いものではない。この発言が核廃絶の確かな一歩となるよう、まずは核を保有する米ロさらに英仏中の五カ国が核削減に向け動きだすよう期待する。日本も唯一の被爆国として、国連や二国間外交の場で核軍縮と不拡散を地道に訴えていきたい。

 

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